清丸恵三郎『北陸資本主義』

清丸恵三郎『北陸資本主義』
古厩忠夫『裏日本』

    北陸新幹線開通で沸いている。かつて古厩氏の名著『裏日本』(岩波書店1997年)を読んだが、北陸地方が明治から戦後高度経済成長まで、太平洋ベルト地帯への傾斜投資によって地域格差がいかに作られたかを、綿密な資料で分析していた。納税は北陸、投資は太平洋地帯というわけだ。「裏日本」イデオロギーが作られていた。
    古厩氏は、「裏日本」を超えるために、内発的発展の道と、「環日本海ネットワーク」を主張していた。清丸氏は「地方創世」のモデルが北陸にあるといい、「北陸資本主義」という内発的発展を詳しく綴っている。都道府県幸福度1,2,3位を石川、富山、福井が独占している。富山市OECDの「先進モデル都市」だし、金沢市は「重要伝統景観都市」だし、福井県は小中学生の学力、体力日本一なのである。
    清丸氏は、北陸資本主義の内発的発展を支えている企業群を巡っていく。ヤンマーや敦賀セメント、信越化学、村田製作所、増永眼鏡、三谷商事、セーレン、大同工業、小松精練+コマニー、石川製作所富山化学、インテック、などなど。YKKの本社機能の北陸移転、日機装の生産拠点の北陸移転、コマツの北陸回帰と「コマツウェイ総合研修センタ」創設など。北陸が地元の資本、労働力、頭脳で、いかに内発的北陸地盤企業が、中小企業を含め進展したかが書かれていて興味深い。
    金沢市は21世紀型文化歴史観光都市を目指しているし、富山市は次世代型路面電車網で、少子高齢化の「コンパクトシティ」を考えているし、福井は「子育て・教育立国」のコミュニティスクールに熱心だ。「越前たけふ農協」は、農民のために自立した地域農協を、全国に先駆け実践している。
    清丸氏は、北陸資本主義の風土を、浄土真宗親鸞の教え、勤労と節約、忍耐強さの精神にあるという。マックス・ウェバーの「プロテスタンティズムの倫理と資本主義」と比較している。この本は北陸圏の範囲か、地政学的にみた北陸、さらに歴史まで視野にいれていて面白い。
    私は21世紀には、古厩氏がいう環日本海ネットワークに進み、環日本海鉄道網の開発により、アジア、ロシアの表日本になることを期待している。(『北陸資本主義』、洋泉社、『裏日本』岩波新書