開沼博『はじめての福島学』

開沼博『はじめての福島学
   開沼氏は、ステレオタイプの「避難」「賠償」「除染」「原発」「放射線」「子供たち」の6点セットではなく、論理とデータを通して、福島の問題のベースを再設定しようと試みている。複雑で一筋縄では溶けない「福島問題」に肉薄しようとしている。
   まず「人口」から始めている。福島の人口流出には、大きな誤解にあるという。基本的には震災後県外に出た人も県内に戻りつつあるが、県外に定住を決めた人も一定数いる。人口減少は全国で起こっており、秋田、青森、山形に比べると、福島は持ちこたえており、県内の地域間格差が問題で、郡山市いわき市では人口は増えている。
  「農業」は、米生産は震災前4位、2011年が7位と下がるが依然として米どころであり、3・11以後作付面積・収穫量は2割減である。福島産米の全量全袋検査では、セシウム基準値はゼロ近くに減少していて、安全だ。県民大規模調査では99%から放射能は検出されず、されたのは、天然キノコ、山菜、イノシシなど常食にしていた人だった。
  開沼氏はセンセーショナルな単純化を避け、「科学的前提にもとずく限定的な相対主義」が福島学には必要と述べている。「漁業・林業」では、色々な漁港に水揚げするため、数字が違ってくるが、水産加工業は回復傾向にある。だが、沿岸漁業は衰退傾向が続く。住宅需要の増加で、林業は97%回復しているという。
  製造業は、震災よりもリーマンショックの落ち込みのほうが大きく、避難区域のある浜通りは、依然として厳しい。復興需要で雇用は活性化し、人材不足は「工事関係」と「医療・福祉」に顕著であり、倒産も少ないと開沼氏は指摘している。
  原発から20キロ地点の広野町は、人口5000人を超え、作業員や復興工事の人の流入で住宅も不足し、「旧住民」「新住民」の問題も出てきているという。
産業復興よりも生活復興を開沼氏は主張している。避難者のケア問題が後手に回っている。中間貯蔵施設うけいれの問題にも触れている。
  開沼氏は、福島の問題は放射線だけでなく、「地方の問題」だと見る視点が出ている。福島を応援したいという考えはありがたいとしながら、単純なステレオタイプ化や政治問題化でない考え方を、この本で提示している。(イースト・プレス)