武村政春『巨大ウイルスと第4ドメイン』

武村政春『巨大ウイルスと第4のドメイン
   21世紀にはいって、巨大ウイルスの発見が続いている。ミミウイルスに始まり、メガウイルス、パンドラウイルス、2014年にはピトウイルスが見つかった。まだ少数だが、DNAの全体のゲノムで見ても、マイコプラズマなどの細菌よりも大きい。武村氏は、巨大ウイルスの謎をこの本で解こうとしている。生物とは何か、「生きる」とは何かが浮き彫りにされてきて面白い。
   巨大ウイルスは、多彩な遺伝子を持ち、細胞性生物に近い機能を備えていると武村氏はいう。ウイルスだから、タンパク質を作り出すリポゾームRNAはないから、宿主には寄生はする。だが、生物細胞がもつ遺伝子からタンパク質をつくるセントラルドグマの「複製・転写・翻訳」の機能に迫ろうとしている。
   生物の最上位の分類ドメインは、これまでヒトのような真核生物、バクテリアのような細菌、熱帯水域に住む古細菌に3分類していたが、武村氏は第4のドメインとして、巨大ウイルスが浮上したという。生物と無生物の境界で、ウイルスは生きているかいないかの論争が再燃した。
   細胞依存性という寄生で生きるウイルスは、細胞の中で共生するミトコンドリア葉緑体のように、巨大ウイルスも共生説に新たな光を与える。巨大ウイルスのゲノム解析から、細菌や古細菌、真核生物とは異なる系統かもしれないとなってくると、生命誕生と初期生命進化論の共進化にも新しい見方が生じる。
   武村氏はパンドラウイルスは、1000種類以上の遺伝子を持ち、最小の細胞生物よりも多い。もし彼らがリポゾームという翻訳機能を獲得すれば、自立して、自己複製とタンパク質合成を行う能力を得るかもしれないと武村氏は指摘する。巨大ウイルスは生命進化論を書き換えるかもしれない。(講談社・ブルーブックス)