山内一也『エボラ出血熱とエマージングウイルス』

山内一也『エボラ出血熱エマージングウイルス』
   20世紀には天然痘が根絶されたのに、21世紀になると、エボラ出血熱やサーズ、高原性鳥インフルエンザなど致死率の高い「エマージングウイルスの時代」になってきている。西アフリカでは、2014年には約2万人が発病、8000人も死んでいる。
   山内氏は、エボラ出血熱の発生が20回を超え、新しい感染症の時代に入ったとみて、ウイルス伝播に適した環境が生じていると指摘している。ウイルス専門家の立場から、エボラの科学的研究の展開を紹介し、その予防と治療を論じていて、よく理解出来る本だ。
   この本を読むと、1975年にジンバブエで、エボラの仲間ウイルスのマールブルグ病が見つかり、2004年アンゴラで流行し100人が死に、自然宿主はオオコウモリと特定されている。エボラと同じだ。もう一つのウイルス仲間のラッサ熱は、シオラレオネで1972年にみつかり、日本、アメリカにも伝播した。自然宿主はマストミスというネズミという。
   エボラも1976年ザイールで出現した。1989年アメリカで医療実験用に輸入したサルから見つかり、1994年コートジボアールデインパンジーから感染が始まっている。ゴリラも5000頭も死んでいる。犬や豚が感染源になるかいま研究されていると山内氏は述べている。
  エボラウイルスは、20万年前に生まれたホモサピエンスより遙か前から哺乳類と共生し、本来宿主でない人間に感染しキラーウイルスに変身した。内戦による荒廃、貧困、公衆衛生の破綻、など伝播に好適な環境で流行した。
  エボラワクチンの臨床試験が始まり、増殖と生存戦略を阻止できる治療薬の試験や投与も始まりつつあるという。だが、まだ決定的治療薬まではいっていない。この本で山内氏は、日本ではウイルス検査の「レベル4実験室」の立ち遅れを指摘して、自主規制で放置された病原体管理も述べている。
  山内氏は、オウム真理教徒が1992年ザイールまで行き、エボラウイルスを入手しようとし、炭疽菌を散布したので「バイオテロ容認国」と国際的に見なされてきたという。気がかりな指摘だ。バイオセキュリテイが必要だろう。(岩波書店・岩波科学ライブラリー)