ソートイ『素数の音楽』竹内薫『素数はなぜ人を惹きつけるのか』

ソートイ『素数の音楽』
竹内薫素数はなぜ人を惹きつけるのか』

        この二冊の数学の本を読み、数式のほとんどは理解できなかった。だが、数式を見ていると、「美的な調和」が感じられてくる。ソートイ氏は、素数をバイオリンの繊細で豊かな音色の比喩で語っている。シンプルな音叉の音を、バイオリンの繊細で豊かな音色にするには、つるつるのガウス素数公式から、リーマンの素数階段の無数のゼータ関数の零点の情報を足したものだというように。
        素数とは、2、3、5,7など、1と自分自身以外のほかに約せない数だ。竹内氏、素数をわかりやすく説明している。素数は現代インターネット社会では、ネットショッピングやメールのやりとりや、クレジットカードの暗号に使われている。13年と17年周期で生まれる「素数ゼミ」にも、繁殖の合理的な計算が働いているというのには驚いた。
        竹内氏によれば、素数とは素粒子にあたり、自然数は原子、整数は分子、分数は物質、有理数無理数は地球、数は宇宙ということになる。素数は無限にあるかという証明から、すでに難しい。数学者ガウスオイラー、リーマンと素数公式を求めて苦闘してきた物語は、ソートイ氏の本に分かりやすく書かれている。
        150年以上も世界の数学者が解こうとしてきた「リーマン予想」は、「完璧な素数公式」と、「ゼータ関数の零点」への挑戦からなり、ソートイ氏、竹内氏の本で克明に描かれている。リーマン幾何学からリーマン多様体が、相対性理論超ひも理論という現代物理学と結合しているという話は、私には半分も理解できなかった。
        だが二冊とも、数学者というフィクションと抽象世界の住人たちの生態がわかり、面白かった。『素数の音楽』の解説で、作家の小川洋子氏が、リーマン予想素因数分解も苦だとしでも、数の海図のために人生を捧げた人々の健気さに、胸が熱くなると述べているのに同感した。(『素数の音楽』新潮文庫、冨永星訳、『素数はなぜ人を惹きつけるのか』朝日新書