細野透『竜安寺石庭』

細野透『竜安寺石庭』

   ミステリの暗号の解読のようで、細野氏の本は面白い。世界遺産竜安寺枯山水の石庭は、白砂に大小15石が配置されている。この庭のテーマ、五群十五石の配置の意味、構図の秘密には、昔から様々な解釈がされてきた。細野氏は、55の解釈を検討し、新説を追求している。
   石庭には「虎の子渡し」「七五三」「心の字」「扇」「星座カシオペア」「黄金比」など多様な解釈がされてきた。細野氏はそれを丹念に検証し批判していく。解釈とは、想像力と実証的論理の二つが必要だが、それを満たしていると思う。
   私は石庭というと、作曲家ジョン・ケージの「竜安寺」という15の石の輪郭線を楽譜に変換し、地下茎(リゾーム)にし、苔や白砂を音量・音程で描いた曲を連想する。さすが、禅を鈴木大拙にまなんだだけある。細野氏は美学発見法として70点を付けている。
   細野氏は、尺貫法が廃止される前に使われていたL字型の「曲尺」を実測図にあてはめ、八つの曲尺三角形で構成されることを発見し、それを清少納言の名と結びついた「知恵の板」で絵解きしていく。そうすると、「地の虎 天の龍」と「達磨大師に始まる法系図」が隠されているという。曲尺三角形は長谷川等伯「松林図屏風」にも見られる。
   英国・科学誌「ネイチャー」にバン・トンダ氏が、コンピュータで「中心軸の法則」を2002年に発表したし、蔡東生氏も鈍角不等三角形のフラクタル構造を、5石群15個に当てはめている。
   私は石数が「素数」であることが気になる。いま素数は乱数暗号としてつかわれている。禅の不立文字、公案の謎を瞑想で解けという事かもしれない。西欧の「黄金比」でなく「白銀比」であることも興味深い。建築史の宮元健次氏は「複合黄金比説」を、最近主張している。
  民俗学者・故吉野祐子は、陰陽五行説をもとに、竜安寺の裏にある一条天皇(彰子中宮紫式部)の御陵群から「源氏を彩る15人の女性」から、15の石の配置を解こうとした。細野氏も指摘しておるが、応仁の乱前後、足利義政銀閣寺を造り、管領細川勝元竜安寺を作ったとすれば、そこには何らかの対抗軸があったのかもしれない。(淡交社