大賀祐樹『希望の思想 プラグマティズム入門』

大賀祐樹『希望の思想 プラグマティズム入門』

   プラグマティズム思想を紹介した本だが、大賀氏は、哲学思想から生じた社会思想の面に力を入れている。大賀氏によると、プラグマティズムは、「相容れない『信念』をもち、対立し合う人びとが、そうした相克を乗り越えて連帯し、一つの『大きなコミュニティ』を形成するやめの指針であり、共生を可能にする」希望の思想ということになる。
   大賀氏の、ジェイムズ、クワイン、クーンの解釈は、プラグマティズムに究極の「真理」など存在せず。また絶対的な「正しさ」は存在しないという懐疑主義にたち、対話重視による暫定的「正しさ」の探求だと位置づけている。
   ジェイムズの「多元的宇宙」論は、価値観(宗教的信念など)が異なる人々が「協約不可能性」で暴力に赴くのではなく、お互いの「違い」を理解して相互に変化していくことと述べている。50万人の死者を出した米国・南北戦争後の反省から考えられた思想が、プラグマティズムの原点かもしれない。
   共生と連帯の論理を、ロールズの『正義論』と、その批判(ハートやセン、ハーサニなど)から説き、「重なり合うコンセンサス」がいかに形成されるかを論じていて、現代アメリカの社会思想が良くわかる。
  この本で面白かったのは、ローティの思想を、ミルなどの功利主義思想から述べている点である。合理的理論だけでなく、感情にまで踏み込んで、ロマン的功利主義や「感情教育」まで述べている。
  クワイン、クーン、ローティの思想には。事実と価値の二元論を乗り越えて、「複数の記述」を重視し、「ネットワーク状の自己」により、「信念」対立の超克によるリベラルで民主的社会を、いかに形成するにまで及ぶ。
   価値対立や信念相克による暴力テロやヘイトスピーチの時代に、大賀氏によるプラグマティズム紹介は、様々な示唆を与えてくれる。(筑摩選書)