後藤謙次『平成政治史3』

後藤謙次『平成政治史 3』

  後藤氏の労作の第三巻である。この巻では、2006年第一次安倍晋三内閣から。民主党への政権交代による最後の政権・野田佳彦内閣(2012年)まで描かれている。政治部記者後藤氏の、政治現場での綿密な取材に裏付けられた厖大な情報をもとに構築されている。「幻滅の政権交代」という副題がついているが、鳩山、菅、野田民主党政権が、なぜ失敗していき、安倍内閣復権したのかの「政局」の動きが良く分かる、
  平成政治は、昭和政治に比べ、混迷・混乱の時代だった。17人の首相が登場し、長期政権は小泉首相と、いまの安倍首相ぐらいである。平成は新党乱造の時代であり、小沢一郎氏は、7党も作っている。後藤氏は、小選挙区比例代表並立制を一原因にあげている。この多党現象が、政党内の権力闘争とともに、平成政治の「政局」第一の政治にしてしまっている。
   この本でも、東日本大震災福島原発事故という未曽有の危機時代に、菅直人首相という弱体政権・孤高政権下で、「菅降ろし」という政争に明け暮れている政治の姿が活写されている。緊急事態に浮上した自民党との大連立(救国・危機管理内閣)も、党外、党内の足の引っ張り合いで頓挫し 対策も復興も有効な方策が遅れている。
   民主党の二重構造(菅氏と小沢氏に象徴される)という「党内野党」だけでなく、自民党の政権打倒という野党の争いが目的となり、日本の政党政治は、果たして国民に役に立つ実践なのかという疑問を持たせる。
   「政局」争いが第一で、マニフェストなどの政策が二の次にされていく政治が、平成政治を彩る。多党制や党内野党の多元化は、逆回転しポピュリズムや、首相官邸・執行部専制に行き着く。安倍首相復権は、ポピュリズムの橋下・維新の会との密接な親和性で準備され、メディア戦略重視で練り上げられていく。
   菅首相が「市民運動家」センスでは優れていたとしても、官僚を使い、体制のなかでいかに政治手法を駆使し、政策を実現していく「政治家」として未熟だったかもしれないと、後藤氏は指摘している。民主党政権交代の幻滅は、理想(政治目的)と現実政治の手法(政治工学)の矛盾にもある。戦後昭和期に政権を独占した自民党の弊害が、突如実現した政権交代野党・民主党に、経験不足をもたらしたといえよう。政権交代が日常化すべきなのだ。
   平成政治は、国際的にも、冷戦崩壊、中国台頭、韓国、北朝鮮問題など近隣諸国の激動期と重なる。「内向き政局闘争」重視の政治が、対応できなかったことも、後世歴史で問われるだろう。後藤氏の政治ジャーナリストとしての労作に敬意を表したい。(岩波書店