魚津郁夫『プラグマティズムの思想』

魚津郁夫『プラグマティズムの思想』

   アメリ現代思想であるプラグマティズムを、パースからジェイムズ、ミード、デュ−イ、モリス、クワインさらにローティまでの思想を紹介している。教科書的かもしれないが、魚津氏の見方が一貫しているのでわかりやすい。
   魚津氏の本を読むと、パースの思想がプラグマティズムの基本線をつくったことがよくわかる。英国のロックやラッセルに行き着く経験論がベースだが、20世紀ウイーン学団の「論理実証主義」にも近いようにも思える。概念を実際的な行為の結果で検証していく自然科学的もの見方と、真理(実在)を「探究」していく過程を重視する。固執、権威、先天的思考は避ける。
   直観でなく、記号を媒介とした「推論」によって解釈していく方法重視は、のちの「記号論」とも親近性がある。知識を実践でテストし、問題解決していくことは、「日常の思想」ともいえる。多元的、相対的になるし、人間の間違いやすさや、真理の暫定性など、絶対的認識にも懐疑をもつ。
   これが極限化すると、ローティ思想のように哲学の脱構築論になる。魚津氏によると、ローティ思想は①反本質主義②事実と価値の区別の拒否③「会話」の合意の制約以外に探究には制約がないという。「限定真理」論による哲学は、仮説しか提供できないのである。相対主義多元主義だ。
   魚津氏は、パースの「実在仮説」や、デューイの「真理対応説」を否定する狭隘さがあると批判的である。私も、ローティ思想はあまりのも、暫定主義、探究主義それに、認識の有限性による誤びょう主義的すぎると思う。
   だがプラグマティズムが、認識を「探究」の過程ととらえ、日常の行為とつなげ、さらに科学万能でなく、宗教や芸術の「意識の流れ」(ジェイムス)まで含みこんだことは、大きな意義を持つと思う。
   なお戦後日本でも、鶴見俊輔氏の『アメリカ哲学』の名著と「思想の科学」運動は、プラグマティズム思想の影響を受けていると思う。(ちくま文庫