岡本裕一朗『フランス現代思想史』

岡本裕一朗『フランス現代思想史』

   日本でも1980年代前後に「ニューアカ」などで、フランス現代思想が流行した。だがデリダの死(2004年)以前から、終わったという風潮がある。日本は相変わらず「様々な意匠」として思想をとらえているのかと思う。だがデリダ没後10年を経て、いま『思想』(岩波書店)や『現代思想』(青土社)などで特集が組まれている。
   岡本氏は、新しい視点でレヴィ=ストロースラカン、バルト、アルチュセール構造主義から、68年5月革命以後のフーコードゥルーズガタリデリダのポスト構造までの思想史を描き出す。
   さらに岡本氏の本の特徴は、ポスト構造主義以後の思想にまで足を踏み入れ、果たしてフランス現代思想は終わったかを問うている。思想の変遷が良く分かると同時に、「近代批判」としてのフランス現代思想が、今後どう発展していくかまで目配りが効いている。
   確かに90年代の「ソーカル事件」により、フランス現代思想は、現代数学や現代科学や数学用語を使い、ナンセンスな難解さと批判された。だが、フランス現代思想が、自然科学と技術論の時代の思想であり、その批判をも含むものであることも事実である。
   岡本氏は、フランス現代思想記号論的―言語論的転回から、コミュニケーション的転回を経て、「技術的・メディア論的転回」(メディオロジー)に深まっているという見方は、興味深い。ドブレ(『メディオロジー宣言』NIT出版)から、スティグレール(『象徴の貧困』新評論)らは、フランス現代思想の後継者だという見方である。
   岡本氏のデリダ紹介も明快である。「根源的現前性」批判から「脱構築」や「遅延」としての「原エクリチュール」にいき、それを転回して「郵便モデル」と遠隔コミュニケーション論に行き着く。晩年のマルクス主義の亡霊的脱構築とメディア論の思想の道筋がやさしく書かれ、シロウトにも理解できる。(中公新書)