木村靖二『第一次世界大戦』

木村靖二『第一次世界大戦

   今年、第一次世界大戦から100年になる。ヨーロッパでは様々な記念行事が行われた。1914年開戦からソ連・東欧社会主義圏解体までを「短い20世紀」とみる歴史家もいる。木村氏の本はコンパクトに起源から、大戦の経過、終結までをまとめてあり、最新の研究成果にも目配りしている。
   秘密外交文書の公開などで、これまでのドイツの世界政策による単独戦争責任論が、英・仏・露など連合国側の軍拡競争、帝国主義競争にも責任があるとする「修正主義」がでて、特定国のみに責任を負わせられないとなっていた。だが、木村氏よると、ハンブルグ大教授・フィッシャーのドイツ政府関係資料精査で、ドイツ責任論が再浮上し激しい「フィッシャー論争」が起こり、定説になりつつあるという。
 木村氏の本では、1914年7月危機から開戦にいたる外交戦から、同盟関係で露・仏・英と独・墺・トルコとの世界戦争になっていく過程を綿密に描く。私は、安全保障による同盟条約と集団自衛権が、いかに戦争を拡大したかという危うさをそこに見る。
   木村氏は、オスマン、ハプスブルグ、ロシアの各帝国が解体され、国民国家に移行したと指摘し、民族自決権重視をあげている。私は、西欧の戦争だけでなく、いまも紛争になっているイスラエル国家やウクライナ国家、アラブ国家の独立(アラビアのローレンス)が、この世界大戦から種を播かれていることが重要だと思う。その遺産は続いている。
   大戦は総力戦で国民総動員になったが、ここから国民参加型国家が生まれ。福祉国家や女性参加・参政権という20世紀の国家体制が生まれたと木村氏はいう。20世紀世紀という「暴力の時代」「大量虐殺の時代」を創設してしまったことも、この世界戦争からである。核兵器に行き着く戦争兵器の進歩も始まった。第二次世界大戦を防げなかったという大きな課題も残した。
   第一次世界大戦は、ロシア革命ソ連の興亡とアメリカの世界的強国への道、西欧の相対化、植民地独立への始まりとなり、国際連盟・連合の創設になった。国家のために何千万の人々が、死んでいく時代になったのである。(ちくま新書