ロンドン『白い牙』

ジャック・ロンドンを読む②
ロンドン『白い牙』
   北国の荒野に生まれた犬の血4分の一混じったオオカミの一生の物語である。父母オオカミの荒野での野生の生活が描かれ、子ども「白い牙」の誕生から物語は始まる。灰色の子は、生まれたオオカミ穴から這い出し、飢えからライチョウやオオヤマネコなどの食べ物を得る為に闘う。この物語は野生の肉食獣の闘争の連続が描かれている。
   インディアンという人間との巡り合いと、そのテント生活で飼われることから「白い牙」の生活は変化していく。同属のそり犬にいじめられ、人間の棍棒による束縛に耐えながら、強者に服従し、弱者を圧迫しながら、このオオカミ混血犬は野生の力を失わない。
   だが白人の闘犬使いに売られ、その白人にこき使われ虐待されながら、闘犬として野生の力で闘い抜く。だがブルドックとの戦いで瀕死の重傷を負ったところを、金持ちの白人の鉱山師に助けられる。この紳士によって、やさしい人間理性の「愛」により、初めて「白い牙」は、主人に対する忠誠と「愛」に生きる。忠犬ハチコウのように、主人に奉仕し、最後は命をかけて、屋敷に忍び込んだ凶悪犯と闘うのである。
   ロンドンのストリーテラーとしての凄さが、この本では十分に発揮されている。読んでいて、オオカミになったようにさせてくれる。勿論、オオカミの野生の力の賛美もあるが、ロンドンは人間社会の批判も鋭く突いている。オオカミ混血犬が、いかに人間との愛情による結びつきを持つかも、犬を飼っている人々と、犬との連帯物語としても読める。
   『荒野の呼び声』が、野生のオオカミに回帰していくのに対し、「白い牙」は、人間の愛情により、人間社会に留まっていくのである。(新潮文庫、白石佑光訳)