ロンドン『どん底の人びと』

ジャック・ロンドンを読む③
ジャック・ロンドンどん底の人びと』
 「朝日新聞」2014年7月24日で、最低賃金時給664円の地方が多くあり、月収8・5万円で50歳過ぎの男性が、夢も希望もなく生活保護の方がましと語ったとある。7月24日付けでは、日本で母子家庭が123万8千世帯あり、年総所得は243万円、世帯平均収入全体の三分の一で、月収5万円のシングルマザーが子守を誰に頼めばと、その困窮を訴えている。働いて、貧しく、養育費が少なく、非正規社員なのだ。
  ロンドンは、20世紀初頭反映する大英帝国のロンドンのスラム街イーストエンドに浮浪者姿で住みこみ、その格差社会ワーキングプアの姿を赤裸々に描いた。ルポルタージュ文学先駆けであり、現代社会の貧困問題を批判した本である。文明の大都市での貧困問題を告発し、未開のイヌイットの生活の方が幸せというロンドンは、自身も若い時ホーボー(放浪的ヒッピー)としてアメリカを放浪した経験がある。
 食べ物と職と住むところを求め苦闘する人々の姿が、一緒に生活して実感されてくる。狭い一室に5人も家族が押し込められ、仕事もなく、必死で職探しをする父親。浮浪者収容所や救貧院で、食べ物を得る為に行列し、人間の尊厳も認められない惨めさ。給食所での風景を、ロンドンは怒りをこめて描く。
  「財産」対「人間」の闘いがある。だが、身体を衰弱させ、気力もなくなり、酒におぼれていく。ホームレスになり、警官に追われ寝る場所を探す日々。痩せて病気がちな子供たち。
  ロンドンは格差社会の現実も活写していく。エドワード7世戴冠式の豪華なパレードを、何日も食べられず、屋外で寝ていた男と見物する。ウエストエンドの豊かなブルジョアたちの生活と、その「慈善」にもロンドンは鋭い批判を述べている。
 「文明は人間の生産力を百倍にしたのは確かだが、管理がまずいために『文明人』は動物以下の生活をしているのだ。1万年前の石器時代と同じ生活を今日もしているイニイット族と比べて、衣食住のすべての面で劣っているのだ」と書いている。(岩波文庫、行方照夫訳)