後藤謙次『平成政治史2』

後藤謙次『平成政治史2』

   この巻は「小泉劇場の時代」を扱う。1998年―2000年の小淵恵三内閣から、森喜朗内閣の2001年―2006年、その次の小泉純一郎内閣までだが、三分の二は小泉内閣で占められている。後藤氏は小泉内閣の5年5カ月は、日本社会を変えたという見方である。だが小淵時代に自民・公明の「自公時代」が始まっているし、国旗国歌法は成立し、日米防衛協力の新ガイドライン関連法など「右傾化」は始まっていた。だが、後藤氏も書いているように「人柄の小淵」であり、韓国・金大中会談での植民地支配謝罪や、中国、韓国首脳会談も行い、歯止めはあった。
   小淵の急死と「五人組」の密室談合の森内閣の過程を、後藤氏は丹念に追っているし、加藤紘一の「加藤の乱」がなぜ生まれ、挫折していったかも十分に書かれている。森内閣支持率7パーセントのあと、劇場型政治小泉内閣が登場する。小泉時代について後藤氏は綿密に描き、力が入っている。面白い。
  小泉は田中角栄に反発し、その派閥後継の橋本龍太郎派閥を徹底的に排除していく。橋本派野中広務との激闘も描かれている。国民投票的世論支持を背景に、官邸主導、国会軽視は小泉の政治手法で、ほとんど独裁政治に近い。人事権を使い、閣僚も一本釣り。2005年の郵政選挙では、民営化に反対した議員には自分の党の公認を与えず、「刺客候補」を立て、処罰もする。後藤氏はその有様を冷静に描く。無党派層や起業家を取り込むのも小泉政治だった。
  竹中平蔵による市場経済重視、規制緩和と「小さな政府」で、それまでの「互助」から「自助」重視になり、非正規社員が増え、格差社会が進んだと後藤氏は指摘する。9・11テロ以後の国際情勢もあるが、小泉・ブッシュの日米同盟は強固になり、戦後初の自衛隊海外派兵が実現する。護衛艦の米艦援護、イラクサマワ戦車砲、無反動砲による武装陸自派兵など「集団的自衛権」は小泉時代に始まっていた。日本人殺害や人質も、自衛隊撤兵要求で、イラクで起こっている。
   私は後藤氏の本を読み、その時に幹事長や官房長官を務めた安倍晋三は、「小型小泉」だと思った。北朝鮮の拉致者帰国や、靖国参拝中韓との「冷戦」、閣議決定の官邸主導、オバマなど日米首脳緊密化 沖縄基地名護市移転など「右傾化」は、小泉の政治手法と共通している、それに規制緩和も。小泉はポピュリズムを初めて日本政治に導入したともいえる。(岩波書店)