宇佐美文理『中国絵画入門』

宇佐美文理『中国絵画入門』

   宇佐美氏は、長い歴史を持つ中国絵画史を、造形作品130点をもとに、「形」が「気」とどのように関わってきたかを基に描き出している。「気の表現」を基軸にし「形」との相関関係で、中国絵画史を古代から清朝時代まで追求しているのが、面白い。
   「気」とは空気に近く、連続する流体であり、集まったり散ったりする。気自体は形になろうとする力があり、気はその性格に応じて形になる。山には固定した形はなく、山は流動するというのが、山水画の根本にあると宇佐美氏はいう。形がない「気」が「形」で現れるのが「気象」である。
   「気の時代」として六朝時代(3−6世紀)が描かれ、「画の六法」にいきいきとした形として「気韻生動」が言われる。筆線の濃淡による山水画が生まれる。唐代には敦煌壁画に西域の影響があり、奥行きを持った山水画も描かれ、肥瘦を持つ表情豊かな呉道玄の絵が生まれる。また輪郭線のなかに線を引く「皺法」という中国山水画の特徴も発明される。
   五代から宋代(10−13世紀)は、北宋山水画のピークを迎え李成、郭煕などが「三遠」(平遠、高遠、深遠)で描き、「風景」は「風と光」という大気の流れとなる。蘇東坡は「人格の表出」としての書画を重んじ「文人画」が誕生してくる。南宋画には牧谿という天才画家が出現し影がない「大気の光」で描いたと、レンブラントとの違いを宇佐美氏は指摘している。花鳥画も宋代にその精神性が高まり、崔白は「静」を表現する。
   宇佐美氏によれば14世紀・元時代は転換期であり、元末四大家(黄公望ら)は「気で出来た世界描写」を拒否し、山川、人間や芽屋といった「形象」が重視されてくる。明代(14−17世紀)は爛熟期だといい、董基昌は「南北宗派論」を唱え、南北の違い、文人と職業画家、浙派と呉派の相違を指摘し、また「好きな形を描く」という奇想派をたて、山などデフォルメした変形主義の絵を描いた。清代(17−20世紀、伝統絵画の終焉の時代であり、西洋画の影響で新しい形がでてくる。(岩波新書