後藤謙次『平成政治史1』

後藤謙次『平成政治史1』

  平成政治は、26年の間に18人の首相が交代し、1内閣の平均在任期間は平均1年4カ月、政党の乱立と離合集散の異常な時代だった。この本は、政治記者後藤氏が膨大なメモと政治家の肉声記録によって書いたドキュメントで力作である。この卷では昭和から平成になった竹下登内閣から、平成10年経済危機で崩壊した橋本龍太郎政権まで8人の首相を扱っている。消費税3%導入から5%値上げまでの内閣である。
 「崩壊する55年体制」という副題が付けられているように、冷戦時代の解体と、自民・社会党の二大政党の55年体制による自民単独政権の崩壊後の権力闘争が描かれている。後藤氏は消費税問題で退陣に追い込まれたのは、竹下登宇野宗佑細川護煕村山富市橋本龍太郎管直人野田佳彦だという。
  金権政治時代といわれる政治献金問題(リクルート事件)は竹下内閣を倒したが、その後も自民党副総裁・金丸信逮捕などつきまとい、「中選挙区制」から「小選挙区比例代表並立制」の改革になり、その過程で自民党分裂劇に繋がっていくことを、後藤氏は詳細に追っている。二大政党政権交代を目指す小沢一郎氏の政党再編が、細川連立内閣を成立させ、自民党一党支配を終わらせる政変は、権力闘争の凄さを見事に伝えてくれる。
  後藤氏のいう「権力の二重構造」も平成内閣の特徴を表している。表の首相の裏に「金(金丸)竹(竹下)小(小沢)」という実力者の権力が存在し、内閣を作ったり壊したりする。最後の自民単独政権だった宮沢喜一内閣や連立政権の羽田孜内閣などの存在が「権力の二重構造」で描かれていく。派閥領袖同士の近親憎悪的とも思ってしまう政治闘争も、政党の乱立や離合集散として、内部から記録されている。
  社会党解体の始まりとなった村山富市首相成立を、後藤氏は「自民党延命の緊急避難政権」として描いていくのには迫力がある。社会党の政策だった日米安保反対、自衛隊、国歌・国旗、反消費税がいかにくずれさっていくかが、政治闘争のなかで示されている。村山が最後に戦後50年の歴史的使命として、中国・韓国などアジア諸国侵略戦争を認め、謝罪する「村山談話」を出して退陣していく状況も、後藤氏は描いている。
  さきがけ、日本新党新進党はじめ、数多くの小政党が、平成時代に出来て連立しながら、消えて行くことも、政権交代と関わっているが、平成政治史の特徴である。政治小説を読むようで面白い。(岩波書店