国立歴史民俗博物館編『歴史にみる震災』

国立歴史民俗博物館編『歴史にみる震災』

  国立歴史民俗博物館は、東日本大震災以後に震災と博物館活動・歴史叙述の総合研究を行っている。2014年3−5月に「歴史における震災」の企画展示をおこない、本書・展示図録を刊行した。この図録は、貞観大震災(869年)から、東日本までの「東北の地震津波」と、安政東海地震(1854年)から関東大震災阪神淡路大震災までの「近代の震災」までの文書、写真、絵画などの歴史資料や考古学などの発掘調査が収録されている。コラムも多数あり興味深い。
  この本を読んでいると、1000年の震災の歴史に、何回も同じ「既視観」を覚えてしまう。2万人以上の死者をだした明治三陸津波(1896年)直後の無名写真家が撮影した宮古市の写真は、最近発見された貴重なものだが、東日本大震災の写真だと思ってしまう。近代の関東大震災でも、丹後大震災でも福井地震阪神淡路でも、その火災の記録には共通性を感じる。瓦礫と焼失した市街地、打ち上げられた船舶、何回も繰り返されている。歴史を見ても震災対策がいかに遅れているかがわかる。
  本書は、400年前の慶長奥州地震津波(1811年)を東日本大震災に匹敵する規模と想定し、貞観地震との比較から1000年に一度のスーパーサイクルにおける「想定外」という発想を見直すべきとしている。この地震の時に、仙台藩沖で探検中のスペイン人ビスカイノの報告も収録され、被災地の状況が記録されている。
  明治の後に昭和三陸津波(1933年)チリ地震津波(1960年)と津波が繰り返し襲う歴史は戦慄的である。防潮堤も部落の移転も効果がない歴史が、本書には描かれている。関東大震災は多くの記録が収録されているが、私には宮城前避難群衆パノラマ写真は衝撃的だった。また徳永柳洲の震災画も凄い。
  第二次世界大戦中に発生した東南海地震(1944年)三河地震(1945年)南海地震(1946年)は戦時中や占領下で報道管制が敷かれ、十分な情報がないが、重要な災害なのがわかる。福井地震(1948年)に地震動の全国的観測網や耐震家屋の設計が提言されたが、その本格化は阪神淡路大震災により、やっと進んだこともこの図録でわかる。
  災害は、社会の弱点を容赦なく暴きだす。被災者の支援も、阪神淡路大震災からやっと本腰を入れられ、東日本大震災福島原発事故と共に本格化したが、「危険社会」への対策はおくれているのが、歴史をみるとよくわかる。戦争と災害の歴史は、日本列島史では、重要な史観を創り出すと思う。(刊行 歴史民俗博物館振興会)