生源寺眞一『日本農業の真実』

生源寺眞一『日本農業の真実』

    TTP問題で、日本農業は正念場を迎える。生源寺氏は日本農業の現実の姿を客観的に描きだし、いかに活路を見だせるかを考えている。食料消費者の視点もきちんと見通している。1993年のGATT・ウルグアイラウンドから、99年食料・農業・農村基本法成立、2006年担い手経営安定法、減反政策など、農政の迷走がまず指摘されている。また2010年に設定された食料自給率50%という高い目標に向かう時、過剰な保護による財政負担増大や、保護主義についての国際社会むけの説得など難題をかかえるという。
   生源寺氏は、農業者の高齢化に伴う農業担い手育成をどうするかという問題と、コメの減反という生産調整政策の二点を、この本では取り上げている。だが否定的でなく、いかに活路を見だしていくかがテーマに成っている。いま農家数は10年前に比べ4割に減り、農業就業人口は三分の二に減少、平均年齢65・8歳と高齢化している。このため、農政は価格政策から経営政策に転換している。「認定農業者」制度や農地集積、法人化が進められている。
    果樹、牧畜、花卉栽培など集約農業は別として、土地利用の水田耕作は、1ヘクタールの小農業である。いま農地貸し出しも増えている。私が面白く思ったのは、10ヘクタールの作付面積で、田植機、直播など技術革新をしても、コストダウン効果は消失するという指摘である。生源寺氏が描く水田耕作の近未来は、数部落に1戸の専業農家があり、その周囲に兼業農家、高齢農家がそれぞれのパワーに応じた農作を行うというものだ。もちろん大規模経営も自由だが、いずれにしろ食品加工や販売の多角化が必要だという。
    コメの生産調整は、重く暗い歴史を残した。農村コミュニティを調整者と非調整者に分断・亀裂を生んだ。100万ヘクタール、全体の4割が減反地になった。耕作放棄地は、埼玉県のほどの面積になる。減反農家への補償金は財政負担を増大させ、他方ではコメ流通の市場経済化を進めた。いまや選択的生産調整から廃止へのソフトランディングの時代に入っている。
    生源寺氏は、職業としての水田耕作の支援を主張している。農地集積を第三者チェック機能のもとに行い、一般法人の所有も必要であり、同時に農村コミュニティの新たな共助、共存の仕組みが必要としている。また生産物の付加価値化、食品産業との契約提携、水田農業と果樹、牧畜、花卉など集約農業の組み合わせなども提言されている。食のグローバル化、アジア向け農産物輸出拡大などにどう対応するかも、日本農業の課題となる。(ちくま新書