池内了『宇宙論と神』

池内了宇宙論と神』

  「神」を媒介者として、人類2000年の歴史において、宇宙の概念がいかに拡大し、変遷したかを追い求めた面白い本である。池内氏は物理学者だが、神の居場所はどこかを宇宙論の歴史を辿り、太陽系から星の宇宙へ、さらに銀河宇宙から無数の宇宙の存在する多元宇宙へ、目に見えない「ダークマター」や「ダークエネルギー」へ、小さく縮こまった「超弦」の次元まで、神の隠れているところまで追いつめてきたという現代宇宙論を紹介している。。
  世界創成神話は、混沌から秩序への転回が共通している。宇宙創成にかかわった神は、世界両親や世界巨人や宇宙卵であれ、「無」からの創造である。現代宇宙論は「エネルギーに満ちた真空」の「時空のゆらぎ」から偶然に生まれでたとする。「色即是空。空即是色」の発想だと池内氏はいう。ガモフのビッグバン宇宙論は、宇宙卵が爆発して飛び散り、諸々の構造が形成されたという夢想からとなえられたと見る。
  現代物理学者ホーキングは、神話の語り部として、4次元宇宙(膜宇宙)やブラックホールの情報喪失や宇宙以前を「虚数」という新しい神話を作ったという池内氏の主張は、面白かった。  コペルニックスの地動説、ブルーノの無限宇宙、ニュートン万有引力ハーシェルからの無数の宇宙が存在する「島宇宙」論、膨張する宇宙から、定常宇宙とビックバン宇宙論争まで、神との関わりで、手際良く紹介されていく。
  私が面白かったのは、ビックバン宇宙論以後の急激な膨張する佐藤勝彦、アラン・グースの「インフレーション宇宙論」で、宇宙の一様性と平坦性が説明され、指数関数的膨張は無数の宇宙が誕生することが自然に説明できる点である。池内氏はこう書いている。
  「神は無数の星から成る銀河、無数の銀河から成る宇宙、そして無数の宇宙からなる超宇宙と、それぞれが入り子となった階層構造を創り上げていたことになる。神はついに究極の奥の手を曝け出してしまったのだろうか。」
  いまや天文学は「観測的宇宙論」が進歩してきており、少しずつではあるが思索と観察で宇宙の姿が明らかになりつつある。神に肉薄しつつある。(集英社新書