菅野稔人編『金融緩和の罠』

萱野稔人編『金融緩和の罠』
日銀がデフレ脱却のために、大胆な金融緩和を打ち出し、国債を大量に購入し、紙幣が多く出回るという政策で、経済成長を目標とするという。G20会議でも「脱デフレと内需拡大」のためで「通貨安競争」のためではないということで、黙認されたが日本にたいし、財政再建構造改革への期待が強い。だが果たしてこの金融緩和でそれができるのか。この本では萱野稔人氏がインダビューする形で、藻谷浩介氏、河野龍太郎氏、小野善康氏が見解を述べているが、三氏ともデフレは社会構造的経済変化のためで、金融緩和では解決せず、逆に国債の信用喪失やインフレの制御不可能を指摘し、危機感を滲ませている。
社会構造変化を、藻谷氏は生産年齢人口の減少と高齢化社会をあげ、消費より貯蓄に向かう性向を挙げている。河野氏も人口動態を重視し、労働力が企業の設備投資をきめるといい、21世紀小泉政権以来の金融緩和が逆に成長分野の投資を抑制させ、それから生じた通貨安が製造業をダメにしたと指摘する。小野氏は、日本はモノへの欲望よりも、交換手段である貨幣そのものの欲望が強まった「成熟社会」になったと分析している。もしそうなら、消費需要より。貨幣貯蓄や貨幣投機の欲望社会ということになり、金融緩和はますますモノへの消費をかき立てない。
藻谷氏は、たとえ人口減少・高齢社会でも消費性向の高い若者・女性に高い人件費を払う企業があれば経済拡大は望めるといい、『デフレの正体』(この読書日記でも取り上げた)で書いた給与アップなど高齢富裕層の貯蓄を若者の給与に回すことや、女性の就労と女性経営者を増やすなどを重視している。小野氏も、貨幣保有欲に適応する金融緩和でなく、雇用創出によってデフレ脱却を主張する。その雇用は公共事業だけではなく、お金の下にあるものを政府が提供する必要があるとして、介護ビジネスや保育ビジネスなどを挙げている。小野氏がいうのは「社会福祉ニューディール」政策ともいうべこものか。
この本を読むと、極端な金融緩和は副作用が強烈であり、国債や日銀券の信用を失わせハイパーインフレの怖さを秘めたショック療法であり、やはり三氏が主張するような、社会の構造変化に見合った雇用創出が今後の課題だということがわかる。(集英社新書、藻谷浩介、河野龍太郎、小野善康著)