プロジェクトシンジケート『世界は考える』

プロジェクトシンジケート『世界は考える』
 プロジェクトシンジケートとは、プラハに本拠を置く国際言論組織である。この集には、世界を代表する経済学者、政治家、国際機関代表者らが2012年の世界を考える論考23編が収められている。原題は「いなごの時代」である。1930年代の大恐慌と価値秩序の崩壊を英国首相チャーチルは、いなごの年と呼んだが、2012年を「いなごに食い尽くされた年」と呼ぶだろうという問題意識からである。グローバル金融危機は解消されない中、世界の国々は自国利益を汲々とし、国内第一主義と地域内保護主義(TPPなど)を重視し、国際的安全保障は蝕ばれつつある。
第一部「危機後の国際協調」では経済学者のスティグリッツ氏が、中国は輸出依存を脱し国内消費を高め、年率7%の経済成長を遂げるのに対し、米国と欧州は、国内分裂と地域分裂により経済成長は望めず、財政緊縮の副作用で悪化する可能性を指摘している。ラガルド国際通貨基金理事も、政府債務を減らし経済成長を確保する二重の難題を抱え、いかに金融緩和と公正な財政再建を行うかを提言している。カウシク・バス世界銀行チーフは欧州中央銀行が金融緩和で各銀行に融資した債務償還期限がくる2014年まで改革が進まないとユーロは激震に見舞われるという。
ジム・オニール氏はブラジル、インド、ロシア、中国を「BRICs」と名付けた人だが、さらに韓国、インドネシア、メキシコ、トルコを含めた「グロース・エイト」が、米経済に匹敵し、もはや欧米がメインではないと新興世界の立ち上がりを指摘している。「ブラックスワン」を書いたタレブ氏は、いま期待するのは無責任な予想ゲームに興じるのではなく、責任を持って自己資金を投じる方向に進み、リスクがもたらす利益と損失を正しく負担する安全公正社会を主張している。ジョージ・ソロス氏は、ユーロ危機でユーロ圏が債権国と債務国、中核国と周辺国に分裂し、債権国が経済政策を決定する現状に危機感を持ち、加盟国の国債をユーロ共同債に置き換えることを提案している。
元世界貿易機構総裁のサザーランド氏は、自由貿易の多角的貿易交渉が危機に瀕し、二国間貿易協定や排他的な自由貿易協定という保護貿易主義に成っていく流れを逆転しないと、1930年代に逆戻りになると警鐘を鳴らす。現日銀総裁黒田東彦氏も「険しい道を行くアジア」を寄稿している。(土曜社、野中邦子訳)