木村草太『憲法の創造力』

木村草太『憲法の創造力』
 木村氏は憲法改正ではなく、現憲法に立って想像力を働かせて多くの人の納得できる公平なル−ルを創造できるという「創憲論」という立場に立っていると思う。木村氏は、創造的憲法の権利を現実の憲法裁判の判決をもとに考えている。君が代斉唱、一票の格差裁判員制度政教分離生存権、公務員の政治的行為、憲法9条など、いまもっともホットな憲法問題を、創造力を働かせて論じていて面白い。
 君が代不起立裁判では、平成23年の最高裁判決の教員の起立・斉唱を命じた職務命令を、合憲とした判決を取り上げている。原告は憲法の思想・良心の自由で争ったが、最高裁判決は君が代の意味に関わる議論を肩すかしした。
 木村氏はこの判決を詳細に分析した上で、学校式典での国歌起立・斉唱命令は、教師の思想・良心の自由の制限問題でなく、労働環境としての安全配慮義務やハラスメント(パワハラ)、差別の問題として考えるべきだという。労働現場でのハラスメントと差別の禁止として労働法上の無効違法だとすべきという。
 選挙における一票格差判決では、最高裁が平成19年判決では、一人別枠制は合憲であり、その帰結として一票の格差が不合理な程度に達した場合には、定数配分を違憲とするとしていた。ところが平成23年判決では唐突に判決を変え、人口の少ない都道府県の住民の意思や価値を国政に反映させる理由で、意図的に投票価値の不均衡を生じさせることは許されないと違憲に転じた。
 木村氏は投票価値を平等にすることは基本だが、完全な人口比例にすれば、大都市圏の人口集中のため人口減少の地方より有利になり、地方軽視になる。人口の少ない都道府県の少数派住民にたいする政治的決定の「正統性」のためにも、木村氏は一人別枠制を合憲とする19年最高裁判決を支持しているようにみえる。
 裁判員制度合憲の23年最高裁判決にたいしても、自発的司法参加というよりも「ボランティアの強制」といった矛盾を裁判員制度は含み、憲法18条の「意に反する苦役」からの自由に抵触するという。木村氏は裁判員に選ばれ、出頭拒否にたいし厳しく過料を取り立てるような対応は、空文化すべきとしている。若き憲法学者の新鮮な視点が、この本には詰まっている。(NHK出版新書)