アンディ・リーズ『遺伝子組み換え食品の真実』

アンディ・リーズ『遺伝子組み換え食品の真実』
 この本に書かれていることが事実なら、原発事故と同じような恐ろしさを感じる。1996年米国で遺伝子組み換え作物の商業栽培が始まり、その先端技術の効果が言われ、巨大企業が政府と結託して、安全性が確証されないのに偽装による情報操作をして、遺伝子組み換え作物を輸出し、グローバル化を推進してきたことも共通性がある。リーズ氏は、英国の農家に生まれた環境運動家で、長年世界を飛び回り、編集者として遺伝子組み換え作物を調査してきた人だけあって詳細にバイオテクノロジー多国籍企業や米国政府、WTOなど国際機関が、アフリカやアルゼンチン、カナダ、インドなどでどういう活動で、普及させていき、どういう害悪がでているかを刻銘に書いている。
 分子生物学者の指摘として、除草耐性や害虫耐性にそれほど効果がなく、逆に生態系を壊し、より強い耐性のあるモンスター雑草を作り出しているのは、遺伝子を独立した単位として他種に転移させても、集合体として構造化し相互に協調・統制がとれていた遺伝子が破れ、突然変異など遺伝子機能が破綻するためだというのは、説得力がある、人間の摂食試験などもせず、人体実験になり、アレルギーやがん、自己免疫疾患を多発させている実態も十分に安全性が検証されず、食品化が先行してしまったためだという指摘も重要である。米国政府とバイオ企業の癒着が、遺伝子組み換え表示を成立させない様々な策略として書かれている。
 私が驚いたのは、バイオ企業が遺伝子組み換えの種子を知的財産権として特許をとり、その作物の種子が飛んで有機農業の農家で育つと特許権の侵害だと巨額の賠償金を請求するすごさである。おまけに遺伝子組み換え企業は、種子企業を次から次に買収合併し、農家で自家種子の採取も不可能になり、次第に遺伝子組み換えになる戦略である。モンサント社は世界の種子の23%、大豆の70%を支配しているという。世界の食料支配を狙うバイテク多国籍企業の凄さを感じた。
 TPPで日本に遺伝子組み換え作物流入し、表示義務もなくなると言われているが、この本の訳者で生活クラブ運動に長年携わってきた白井和宏氏は、日本でも遺伝子汚染と試験栽培は広がっているという。日本でもバイオ多国籍企業は、大豆、綿、ナタネ、トウモロコシの試験栽培を茨城県で行っているし、農業生物研究所はつくば市で病害抵抗性イネやスギ花粉症緩和イネなどをし、全国で8カ所を挙げている。すでに1600万トンのトウモロコシを米国から輸入し、8割は遺伝子組み換えである。大豆、ナタネ、飼料用原料など遺伝子組み換えの輸入は、190品目にあがるという、日本の表示法はザル法だと白井氏はいう。5%まで混入を許し、食用油、醤油、牛乳、チーズなど加工食品は除外されている。遺伝子組み換え食品に厳しいEUの方針を白井氏は学ぶべきだと主張している。(白水社、白井和宏訳)