布施英利『構図がわかれば絵画がわかる』

布施英利『構図がわかれば絵画がわかる』
 布施氏は美術解剖学という視点で、人体が「立つ」という骨格が重力に対してもつ「バランス」を独立して引き出すと、絵画の「構図」が生まれるという。絵画はモノだが、そこに構図があり、それが宇宙までつながっている。布施氏はその基準で、古今東西の美術を論じていく。ダ・ヴィンチからフェルメールムンク、モネ、ウォーホルからインド美術まで、形態よりも構図を重視しているのが面白い。
 三角形という構図で、ピカソゲルニカムンク「叫び」の構図の共通性を指摘し、光琳紅白梅図屏風」の構図は、ムンク「叫び」と上下逆の三角形で似ているという。垂直線ではフェルメール「牛乳を注ぐ女」と千住博「ウォーター・フォール」デュシャン「遺作」を取り上げ、重力を安定させるバランスから考察している。遠近法も一点遠近法から三点遠近法まで論じられ、二次元ではジャスパー・ジョーンズ、三次元ではセザンヌ、四次元ではゴッホがえがく「らせん」が分析されていて、面白かった。
 光が作る構図では、フェルメール「兵士と笑う女」、モネ「積みわら」が太陽が作る時間を描いていると分析する。色彩の構図では、赤、青、黄色の三原色とその補色による色彩遠近法として、シャガール「私と村」が補色効果の代表事例としてあげられ、白と黒の構図では千住博の絵画が説明されている。私はもう少し水墨画を取り上げて欲しいと思った。人体の構図では、インドなどの仏像が、解剖学の視点で捉えられていて、興味深い。布施氏は東大医学部で解剖学助手をしていたことがあり、その視点で人体のバランスを仏像やギリシア彫刻にまで広げ、構図のバランス感覚に注目しているのが、それがこの本の中核になっている。美術と科学の接点を追及している本である。(光文社新書