稲垣栄洋『植物の不思議な生き方』

稲垣栄洋『植物の不思議な生き方』
 身近にいながら謎の多い植物の生き方を述べた本である。生き方というように、稲垣氏の本は植物を擬人化して描いている。植物を主人公にして描くのだからやむを得ない。だが分かりやすい。田中修著『植物はすごい』は、植物を静的に内部的に描いているが、稲垣氏の本は動的に、敵と戦って身を守り、ストレスや困難を乗り越え、花を咲かせ実を結び、次の世代に生命をつないでいく姿に力点を置いている。アリストテレスは、「植物は逆立ちした人間である」といった。口に当たる根が一番下にあり、胴体にあたる茎がその上で、人間下半身にある生殖器が一番上の花だというのだ。稲垣氏の本を読んでいると、それが実感される。
 いろいろなテーマが書かれている。私が面白かったいくつかをあげる。やはり植物の共生のドラマである。エダマメの根には根粒というコブがあるが、そのなかに100億個の根粒菌が住む。根粒菌は病原菌としてエダマメに侵入し激しい闘いの後、根粒菌が窒素を固定しエダマメに栄養として供給し、他方エダマメは根粒菌が必要とする酸素を運ぶヘモグロビンを体内に備え共生した。花と昆虫のかけひきによる共生もくわしく書かれている。すべて受粉のためだが、そのための努力もある。花の色は黄色い花はアブタイプ、白色はコガネムシタイプ、紫はミツバチ、赤色はチョウチョウと分業している。ハナバチをパートナーに選ぶレンゲなどは、蜜の入り口の幽閉の操作部分に、ヒントになる目印をつける。
 植物を老化させるホルモン(エチレン)は、メロンやリンゴ、バナナなどの果実を成熟させ種子を残すためだ。老化ホルモンは子孫のためだが、エチレンは化学的作用でなく、成長を抑制するため植物に伝達する記号にすぎないというのも、驚きだ。紅葉がなぜ赤色になるかも、冬を迎えるためのリストラだという。葉の付け根に「離層」という水分や栄養分を通さない層をつくり、行き場を失った糖分がアントシアンという赤い色素に変わるというのだ。また被子植物の生誕が、裸子植物を食べていた恐竜を次第に滅亡に追い込んだという仮説は、いま森林破壊をしている人類の警鐘にもなっている。(朝日文庫