田中修『植物はすごい』

田中修『植物はすごい』
 21世紀は「植物との共存・共生の時代」といわれる。田中氏の本は、植物のかしこさ、生きるための巧みさや、逆境に耐えるための努力などの「すごさ」を、植物学の方法で描いた植物賛歌と読める。水と二酸化炭素を原料にして、太陽の光を使ってデンプンを生産できる「光合成」を、人間は逆立ちしても出来ない。わたしの家の庭に繁殖するドクダミは、いかに摘んでも地下茎を張り巡らして、春にどっと新芽が咲き出す。除草剤をかけても地下茎には届かない。ドクダミには抗菌・殺菌作用があり、虫たちも寄りつかない。ドクダミ茶は動脈硬化や利尿剤の作用があるという。地下茎の絆はワラビ、スギナ、ヒルガオなどにもみられる。
 植物は自分のからだは、自分で守るすごさを田中氏は強調している。植物は動物に食べられるが、食べ尽くされたくない防衛手段をつくる。トゲはバラ、アロエからワルナスビ、ビラカンサ、イラクサ奈良公園で繁殖するのは鹿が食べられないから)の生態について書かれている。また味も防衛手段になる。痛みをともなう「辛み」「苦み」「酸味」を持つのは、タデ、トウガラシ、カラシナ、コショウ、ショウガ、サンショウ、ダイコンなど。それがどれだけ人間の味覚を豊かにしているかを化学的に説明している。病原菌から身を守る防衛物質として、イチジクやヤマイモ、オクラ、モロヘイヤなどネバネバ乳液は、病原菌のタンパク質を溶かすという。かさぶたを作って身を守るのは、ハガキノキ、バナナ、リンゴなどで、表面に傷がつくと、黒ずんだかさぶたで病原菌が入り込まないようにする。食べ尽くされないための有毒物質を持つのは、シャクナゲトリカブトから、アジサイの葉(青酸系)、ニラ、アサガオキョウチクトウ、、オモト、ユーカリヒガンバナ、ソテツなどだが、その話は面白かった。
 太陽の紫外線など強い光にいかに抵抗していくかも、ハイビスカス、ナノハナなどを例にあげ、花びらを美しく装うのは、紫外線が当たって生み出される有害な活性酸素を消去する植物の生き残り戦術だという。田中氏はナノハナが土壌の放射能汚染を緩和する効果には、懐疑的である。無花粉スギの育成の話も植物の奥深さを感じさせた、(中公新書