有吉佐和子『日本の島々、昔と今。』

有吉佐和子『日本の島々、昔と今。』
 1980年に書かれた本だが、『複合汚染』が環境破壊を告知していたように、この本は、竹島北方領土尖閣諸島の国境問題をいち早く予言していた。有吉氏は北は天売、焼尻島から、南は波照間、与那国島種子島屋久島へ、さらに対馬隠岐島福江島、太平洋の小笠原・父島まで現地を訪ねルポしている。北方4島には対岸の中標津から、尖閣列島はヘリで上空をとんでいる。「海は国境になった」と考え、島々の歴史をも探究し、日本の最前線である島々の問題を明らかにしている。有吉の離島にたいする思い入れは『ぷえるとりこ日記』にも見られるが、日本でもっとも外国と接触があり、沖縄や小笠原はじめ甚大な犠牲にもなってきた島々の姿が活写されている。
 1980年当時の石油危機による漁船の燃料不足や、海の200カイリ領有権、日刊大陸棚問題、、乱獲による魚不足や養殖漁業の問題、第二次世界大戦の戦後処理が持続的に島民を難民にしていった状況などが、つぶさに描かれている。古代から島々が外国との交際の先兵だったし、その犠牲も本土より「スケープゴート」として苦難を与えられている。有吉はいう。竹島は海に線がひかれることの苦悩を、200カイリ領有権より遙か以前から知っていてと指摘している。近代以前、鬱陵島無人島の竹島の取り違いの歴史から解き出す有吉の見解は面白い。
 北方4島でも、難民になって北海道にきた人々を丁寧に聞き書きして、日本と当時ソ連の関係を歴史を基に、日本・ロシアの共存の可能性を示唆している。また尖閣列島に関しても60年代後半に、石油や天然ガスの鉱脈があるという研究が発表されてから、日本、韓国、台湾、中国での領有権争いが熾烈になったかを描いている。その上で、地震などの地殻変動尖閣が姿を消す日がくるか、、尖閣に石油さえでなければ日本と中国の友好は永遠に安泰であると言い切っている。日本が平和国家として生き延びて行くためには尖閣から資源がでない方がいい。わたしは、小笠原・父島が米国民が移住した歴史があり、ハワイ化する可能性があったという有吉の指摘も興味深かった。(岩波文庫