永田浩三・水島宏明ら『テレビはなぜおかしくなったのか』

永田浩三・水島宏明ら『テレビはなぜおかしくなったのか』

 元NHKプロデューサーらテレビ現場に詳しいジャーナリストらが、社会に大事な情報が本当に伝えられているのかを考えた本である。金平茂紀氏は、2012年に首相官邸前での反原発デモの報道姿勢に、官尊民卑のオンエア感覚をみ、「原子力ムラ」に配慮した「慣性の法則」と日々の日常に流され、重要な問題を「忘却」していくテレビの姿を描いている。組織の論理が記者の「現場と表現の往復活動」を妨げていると指摘する。永田浩三氏はNHKを覆う「権威」依存体質を従軍慰安婦報道を中心に、支配権力によって慰安婦問題がタブーになっていく状況を描いている。
 水島宏明氏は、お笑い芸人の母が生活保護を受けていたことを機に、いかに一方的な「生活保護バッシング」が魔女狩りのように、繰り返し放映されたかを綿密に分析している。不正受給ばかりが多くとりあげられ、水際作戦で生活保護が受けにくくなっている状況には触れないという片手落ちを描いている。五十嵐仁氏は、尖閣で領土問題を引き起こした石原慎太郎氏の責任をメディアが報道しないことをおかしいとして、それはなぜかを追及している。
 この本を読んで私の感想は、テレビ産業は報道機関ではなくなり、視聴率ポピュリズムの市場主義の「気晴らし産業」化が報道を衰退させ、おかしくしたのだと思う。「自由からの逃走」と「空気を読み順応」する大衆社会の機関である。NHKは国策機関であることは、政権党に依存するから当然である。物の見方が、官僚エリートの立場になる。いまやテレビ局はじめマスメディアは資本主義システムの一環であり、大衆操作と大衆迎合主義の両面性を持っている。私は、メディアを批判・監視する「メタ・メディア」が必要だと思う。その一つはネットジャーナリズムであってもいい。市民運動組織でもいい。テレビ局は、今後報道番組のクリエイティブなイノベーションが必要だろう。(高文研)