ブランキ『天体の永遠』

オーギュスト・ブランキ『天体による永遠』

 19世紀フランスの革命家で7月革命、二月革命の闘士であり、パリコミューン蜂起の前日に逮捕されトーロー要塞に幽閉された時書いた宇宙論的思想である。ブランキはマルクスも認める革命家でモンサン・ミシエル要塞にも幽閉され、驚くことは延べで33年と7カ月も幽閉されていた。この書物は宇宙論の形を取っているが、訳者・浜本正文氏によれば、ベンヤミンやニーチエ(永遠回帰)に匹敵する思想だという。私にはトロッキーに匹敵する永遠革命の思想とも読める。
 「宇宙は、時間的、空間的に無限である。それは永遠で、無辺で分割不可能である」という文で始まるブランキの想像的宇宙論は、現代天文学から見れば幼稚かもしれない。ハーシェルの望遠鏡とラプラスの数学的宇宙論だけの知識だし、相対性原理も量子力学もビックバン宇宙論ブラックホールも知らなかった。だからこの本は自然科学の宇宙論として読んでもしょうがないだろう。革命の挫折者であり、長期の幽閉者の深い思索が結晶
した詩的想像力による宇宙論なのだから。圧倒的な自然エネルギーの反復を前にした人間の卑小さが随所ににじみ出ている。
 ブランキ思想の特色は、マルクスの19世紀的進歩思想による社会改革の対極を見据えていることだ。無限の宇宙において100余の有限の元素で構成される物質世界は、無限に達するためには「反復」せざるを得ない。元素の化合物はいかに多様であろうと、限りがあるから、自然はその作品の一つ一つから何十億部のコピーを印刷せざるを得ない。天体の組成では類似と反復で構成され、相違と変化は例外とブランキはいう。同一物の無限の反復は、宇宙に無数の地球が誕生し、同一の人類の反復が不可避だという。無限の反復による同じ平行した宇宙が存在するという平行宇宙論のように見える。反復が無限に繰り返される永遠回帰の思想である。そこには進歩思想はない。そこには19世紀の政治綱領の欺瞞、革命の幻想、進歩の欺瞞が告発されている。
 解説で浜本氏は解放の約束である史的唯物論対ブランキの宇宙論的思弁、反復に支配される人類の地獄が語られているという。私は、ブランキ宇宙論は動的宇宙論であり、生と死、破壊と創造、変化と安定、喧騒と休息の繰り返しであり、永遠の交代と変化の同一性、再生と復活の永遠性という考え方に、ブランキ革命思想の原点があるように思えた。ブランキの本の最後はこう結ばれている。「宇宙は限りなく繰り返され、その場その場で足踏みしている。永遠は無限で、同じドラマを平然と演じ続けるのである」(岩波文庫浜本正文訳)