上野千鶴子『ケアの社会学』

上野千鶴子『ケアの社会学


 21世紀は少子・高齢化社会が進む。日本でも1997年に介護保険法が成立してから、福祉=社会保障は重要な課題になっている。上野氏は、「依存的な存在」である高齢者、女性、子供、障害者、病者などを横断した共助と連帯の「ケア社会」が構築され,ニーズを基に「社会サービス法」を作り、官、民、協、私の4セクターの「最適混合」による多元的福祉社会を目指そうと考えている。上野氏は社会学者だが、理論的ケア論だけでなく、市民事業体の参加型福祉(NPOなど)から生協福祉(グリーンコープ、神奈川、千葉など)や、官 セクター(秋田県の旧・鷹巣町)の事例を実証研究している。労作で500ページになるが、読んでいて、現代日本が浮き出され、スリルさえ感じて興奮を覚える本である。
上野氏の90年の著作『家父長制と資本制』は、ジェンダー論の傑作だが、そこでも、「家族の社会化」や「家族介護の神話」批判の視点は強く出ており、人間の生命を生み育て、その死を見取る「再生産労働」が社会的に低く見られている労働格差問題が重要な課題と見なされていた。この本でもケア労働、育児労働や、ワーカーズ・コレクティヴなどの低賃金による差別の上に、主婦感覚の女性の仕事に特化してきたのは何故かがとわれている。上野氏は市民主体による「公益」を追求する市民活動である生協福祉などの「協同セクター」を重視しているようだが、同時に官セクタや、市場企業など民セクター、私的家庭も軽視していない。この連携がうまくいくかが、こんごの福祉多元社会のあり方を決めていくだろう。
上野氏はケアの定義を「依存的な存在である成人または子どもの身体的かつ情緒的な要求を、それが担われ、遂行される規範的・経済的・社会的枠組のもとにおいて、満たすことに関わる行為と関係」といい、ケアは、ケアする側とされる側の相互行為と考えている。その上でケアされる人の当事者主権を重んじている。この相互関係性が依存性を持つため不対称性があるため、当事者主権は人権尊重としても大事であり、高齢者・障害者を主体に当事者のニーズを主張する市民ユニオンのような組織が必要となるだろう。「介護・介助・育児の社会化」は、それを必要としているのではないか。(大田出版)