牛島定信『パソナリティ障害とは何か』

牛島定信『パーソナリティ障害とは何か』

若いときから対人関係が苦手だった私は、精神医学の本で、その類型論を読むと自分がそれに当てはまるのではないかと思ってしまう。おまけに最近では精神病と精神病質の間に一過性の「境界性」まで存在するというので、性格が病むというパーソナリティ障害のどれかに当てはまるような気になってしまう。牛島氏によれば、パーソナリティ障害とは「社会や現実への認知の仕方が著しく偏っていて、感情調整や衝動コントロールに障害をもち、普通に対人関係を作り、維持することが出来ない人」だという。遺伝的要因よりも、子供時代の母子関係や家族内力学に加え、青年期発達に大きな影を落としている社会文化的変容がパーソナリティ障害に影響していると指摘している。
牛島氏はアメリカ精神医学会の診断体系DSM−鄽を基に類型化している。①は主観的世界のなかの「私」で、スキソイド、サイクロイド、妄想性障害が含まれる②は主観と客観のあいだのあいだでおこる障害で、反社会性、自己愛性、境界性が含まれる③は外界と「私」の対峙で、回避性、強迫性、演技性が含まれる。それぞれの症例が具体的に出ていて分かりやすい。反社会性パーソナリティ障害に付属池田小学校殺傷事件の犯人の分析をしたり、自己愛性パーソナリティ障害に作家の三島由紀夫の例を挙げたりして興味深い。
 回避性パーソナリティ障害は、低い自己評価の自信のなさや劣等感とそれにともなう「ひきこもり」傾向をもつが、日本では対人緊張症として森田正馬の森田神経質の高い自我理想(主観的虚構性)をもち、幼児的な「甘えの構造」による「恥の心理」との類縁から論じているのは興味深かった。パーソナリティ障害には幼児期からの「母子関係」が重要な心理発達と絡んでいることが症例から窺える。
 ジャネット・セイヤーズ『20世紀の女性精神分析家たち』(大島かおり訳、晶文社)を、私は最近読んだが、フロイトの家父長的精神分析に対し、母子関係を重視したドイッチ、ホーナイ、アンナ・フロイト、クラインの4人の女性分析家を取り上げていて、刺激的な本だった。一緒に読むと、なお理解を深めるだろう。ただし、日本における母子構造の分析と少し違うような気がした。(講談社現代新書