『歴博・12年11月号沖縄特集』

歴博・2012年11月号・特集沖縄』


国立歴史民俗博物館では、2013年3月に民俗展示室がリニューアルオープンされる。それにあわせて刊行された特集である。「沖縄イメージの形成」「沖縄戦跡と観光」「西表島の自然」の三つのテ^マが設定されている。民俗学者にとっては柳田国男以来、沖縄は重要な文化を秘めてきた。そういえば最近「おもろそうし」の研究者外間守善さんが死去した。この『歴博』特集は面白い。三木健氏の「琉球弧の宝庫・西表島」は、自然と開発との相克の視点で書かれている。沖縄島に次ぐ二番目に大きい島だが、いま人口2200人の過疎島である。この過疎化は明治からはじまっており、その原因は9割の山林の国有化からである。さらにマラリア人頭税に苦しんだ島人たちが南米や本土に移民していく歴史である。戦前は最南端の炭鉱として、「蟹工船」のようなタコ部屋労働が行われていた。戦後復興のため木材資源のため、開拓入植がおこなわれた。1965年イリオモテヤマネコが発見され、国立公園指定になると、環境保護のため土地が囲い込まれ、「人間優先か、ヤマネコ優先か」という自然と開発の相克がおきていると三木氏はいう。
 吉浜忍氏の「戦跡の文化財指定を考える」は沖縄戦体験者が少なくなった今、「記憶体験」と共に、戦跡など場所記憶を重視しようと、南風原町が沖縄陸軍病院南風原壕を町文化財指定にしたことを書いている。外科病棟が地下壕に移され、「ひめゆり学徒隊」が看護師として勤務した悲惨な歴史の追体験の壕は、戦跡の保存活用として2007年に公開式が行われた。久保田晋氏による「近現代沖縄におけるポピュラー音楽の展開」は面白い。戦前の沖縄新民謡から伝統的民謡とポップス的音楽の融合が見られ、70年代の沖縄ポップが喜納昌吉知名定男が生まれ、それが90年代に復活された。久保田氏によれば、沖縄ポップの特徴は①沖縄土着性表現への接近と②沖縄新ロマン主義ともいうべき南の楽園・癒しの島というユートピアのイメージにあるという。いま沖縄ブームを担うビギンなどには沖縄ポップと「しまうた」の融合という新たな時代が始まりつつあると久保田氏はいう。
 多田治氏の「沖縄イメージの形成と展開」は力作であり、戦争と基地の島から、「リゾートと癒しの島」としてのイメージがいかに生まれたかを丹念に辿り、それが地元での沖縄ポップ、琉球王朝、長寿食など再発見に繋がり、歴史的に割り当てられてきた周縁性、境界性はいまや、イメージ準拠の文化の中で、積極的に活用されていると多田氏は述べている。だが、これらの論文に欠け落ちているのは、沖縄ロマン主義が、戦争責任と米軍基地という新植民地主義によって、挫折し幻想にならざるえないという現実主義にある。歴史主義の限界だろう。(歴史民俗博物館振興会刊)