ローレンツ『人イヌにあう』

コンラート・ローレンツ『人イヌにあう』

ミステリーチヤンネルでオ−ストリアの警察犬レックス(LEX)を楽しみに見ている。あのシエパートの主人刑事への忠誠と犯罪者を追い詰めていく凄さが好きだ。ソフトバンクCM白戸家のイヌも思慮深げに見えて好きだ。他方イヌは愛玩動物、伴侶動物として家族の一員にもなっている。ローレンツといえば「ソロモンの指輪」で動物生態や動物行動に新局面を開いた学者だが、とくに動物の学習過程を「刷り込み」として明らかにした。動物が人間との関係で進化的な適応を遂げていくかが活写されていた。この本でも人とイヌの関係を観察しながら、イヌの本性を探っていく名著である。ローレンツは日常実際におおくのイヌを飼い、付き合いながらイヌの生態を観察している。イヌの飼い主であるとともに友人でもあるように見える。
 ローレンツはイヌのジッャカル起源説をこの本では唱えているが、のちにオオカミ起源説に傾斜していく。この群れる食肉獣がいかに人間に忠誠をつくす動物になっていくかを、二つの忠節の起源で、「親」と「群れのリーダー」への依存・服従から説く。依存心の強すぎる性格と、独立心が強すぎる間で幸運にも中庸をえたものが、イヌの理想的性格だという。ローレンツは実験室でイヌの心理を抽象的・普遍的に考えるのではなく、多数のイヌを野外で飼ってイヌの個性を見つけ出す。それぞれのイヌの個性が描かれていて、興味深い。イヌの訓練でも「伏せ」が基本だが難しいとしている。これが出来ると様々な訓練が出来ていく。イヌが飼い主の性格が反映するかの考察も面白い。猟犬の習性を持つイヌが、いかに同じ家に飼われた動物に手をださないようにしつけるかが「休戦」という章で書かれている。イヌの固定化された本能の衰退が自由を生み、人間の言葉をどう理解しようとしていくかの考察も興味を呼ぶ。野性を失わず、孤独で群れず反社会的で、小さな豹の性格を失わないネコとの比較も面白い。イヌが好きな人々には、この本を読むとイヌともっと親しくなれる。(早川書房,小原秀雄訳)