伊藤正直『金融危機は再びやってくる』

伊藤正直『金融危機は再びやってくる』

 表題は刺激的だが、内容は国際金融危機の原因を、国際金融システム、経済政策思想、世界経済編成の三点から考えたグローバル化時代の経済学である。伊藤氏は1970年代以後何故金融危機が繰り返し発生するのかを三点から考える。
①1970年代初頭のプレトンウッズ体制という為替の固定相場制の崩壊で、ドルという基軸通貨の持続的弱体化が国際金融システムの不安定化を起している②先進資本主義国におけるケインズ経済学批判として、マネタリズム、供給の経済学、合理的期待などの新自由主義・市場主義的経済政策が進んだこと③G5、G7という国際協調システムが崩れ、現在のG20のように、中心と周辺、中核と衛星国おような同心円的国際構造が変容したこと。
  伊藤氏は2008年に起きたリ-マン・ショック以後から2012年ユーロ危機までの金融危機の国際的経過と対応を辿る。グローバル化時代とは資本移動の自由であり、金融グローバル化と位置づける。アングロサクソン自由主義である「自由貿易規制撤廃構造改革」であり、その基準になったのがワシントン・コンセンサスだとする。金融危機により2008年から始まった20カ国によるG20金融サミットの流れを、伊藤氏は国際政策協調と金融規制を辿り、いかに国際的金融規制が難しいかを指摘している。
  この本の重要な論調は、金融危機新自由主義的改革と関連させて論じている点である。伊藤氏は新自由主義を4つにわける。①、完全競争市場こそが大切で、公権力介入を最小限に抑えるというアングロサクソン自由主義、②「社会的市場経済」を求め、議会制民主主義で公権力の市場介入をもとめるドイツ、フランスの大陸ヨーロッパ的新自由主義、3公有制を基盤に国家のマクロ的コントロールと開放経済で競争的市場秩序をめざすが、アングロサクソン新自由主義に親和性をもつ中国的新自由主義、④イスラーム法に基盤を持ちながらアングロサクソン自由主義のマネーの自由活動、資本移動の自由を重視してきているイスラーム自由主義など多様である。
 伊藤氏はこうした状況で金融危機は新しい基軸通貨の確立が必要だが、それは困難だから先ず一国的保護主義でなく、国際機関(IMFなど)の政策への信任回復、地域間の協力・連携の強化が必要であり、金融規制改革に国際公共社会の力による「正義という徳性」を求める道が必要としている。それがなければ金融危機は再発するというのだ。(岩波ブックレット)