真野俊樹『入門 医療政策』

真野俊樹『入門 医療政策』

 厚生労働省は9月27日、2010年度の国民医療費が前年度より3・9%増えて37兆4202億円になったと発表した。国民一人当たり約30万円弱で、過去最高である。65歳以上が55%だ。医療費は毎年年間1兆円以上増加しているが、高齢化と先進医療など医療技術の進歩が絡んでいるという。真野氏は医療経済学の専門家だが、この本では医療政策学を提案している。税と社会保障の一体化という日本における政策の流れの中で、2025年には70兆円になるという医療費の試算があるほど「生の政治学」の重要な問題を取り上げている。TPP(環太平洋パートナーシップ)参加でアメリカが医薬品・医療機器の規制自由化、株式会社の病院経営の自由化、混合診療の原則解禁という医療市場化を求めてくると見られるいま、小泉改革民主党政権の医療産業化重視とともに、果たして今の医療はどう変わるのかが問われている。
真野氏は、この本で、国民皆保険をどのように維持していくのかや、公定価格である医療価格決定をどうするか、医師数問題の解決、医療費の財源をどう解決するかの問題提起をして、綿密に検討していて、高額療養費を支払ってもらっている私には、読み応えがあった。日本の医療には、国民、患者、医療提供者(医師、病院、製薬など)、政府、地方自治体。企業などの保険者ら複雑な関わりがあり、医療政策は様々な利害が絡まっていることがよくわかる。この本を読んで私が重要だと思う対立点はつぎの通りである。今後キュア(治療)重視かケア(公衆衛生、介護など)重視かである。治療重視は先進医療(遺伝子や更生医療など)の技術革新で、医療の産業化が進み、アジアへの輸出も増え医療費も減らすことが出来るが、格差医療も生じる。またケア重視だと、平等に医療を受けられるが、高齢化で医療費は増大し財源が不足し、医療の革新は滞るだろう。国民皆保険制度を維持しながら、付加価値の高い成長産業としての医療産業化は、果たして出来るのかという難題がある。(中公新書