和田昌親『ブラジルの流儀』

和田昌親編著『ブラジルの流儀』

 ブラジルの国民性を「社会・生活」「経済・産業」「文化・歴史」「サッカー・スポーツ」に分けて、67編のコラム形式で書かれていて面白い。「なぜみなアバウトで、フレンドリーで、楽天的なのか」では、時間でも3時とは3時から3時59分までを指すといわれ、人間が生まれ変わるとは思っていないし「一度しか生きられない」といい、自殺者は日本の6分のⅠと世界でも最小だという。超インフレ、債務危機を乗り越えたのもこの楽天性にあると説く。なぜビーチが好きなのか、なぜリオのカーニバルが世界一になったのかも述べられている。他方ブラジル人の優しさが「サウダージ」という郷愁、思慕、懐かしさ、孤愁などが詰まった言葉が基本にあり、奴隷であったアフリカ音楽とブラジル土着インデイオ音楽の混合からできた「サンバ」「ボサノバ」(ジルベルト、ジョビン、モライス)の基底に流れている。
この本が面白いのはジゼルなどファッシヨンモデルが世界的に有名になったことから褐色系の肌を、混血国家ゆえと述べ、なぜ人種差別が少ないのかを白人、黒人、インデイオの混血社会における「人種民主主義」から説く言説にある。なぜ日系社会がかくも大きくなったのかや、なぜかって宗主国ポルトガル人を馬鹿にするのかもその延長で語られている。なぜブラジル語はポルトガル語よりやさしいのかの指摘も面白い。ジゼルがはくビーチサンダルのブランド「アバイアナス」は日系人による草履と鼻緒がヒントであった。なぜ三菱財閥・岩崎家がサンパウロの先の「東山農場」で定着したのかや、なぜ曲線美の建築が多いのかで巨匠建築家ニーマイヤーをとりあげ、その影響を受けた日系建築家ルイ・オオタケを取り上げている。
経済ではなぜ高金利が続き、国民は超インフレなど経済混乱に耐えられたのかや深海油田開発やアマゾン奥地のカラジャス鉄鉱山開発、さらになぜ水力発電所を作り続けるのかのコラムも面白かった。ホンダのオートバイの成功とトヨタの伸び悩み、さらにエタノール自動車やエンブラムの中小型航空機(日本航空が多数購入)が世界一になった秘密も説いている。なぜサッカーが強いのか、サッカー選手のブラジル回帰現象、カカ選手を例にあげカトリック国家でいまやプロテスタントが増えてきていると指摘するなどサッカー好きにはたまらない本である。読んでいるとブラジルが好きになってくる。(中公新書