堀坂浩太郎『ブラジル』

堀坂浩太郎『ブラジル』


 21世紀の主役ともいわれ、発展著しいBRICsの一国に数えられ、サッカーW杯ついでリオ五輪開催も決まっているブラジルを、1980年代の軍事政権終了から債務危機、90年代の民政移管へ、21世紀の民主主義政権下の「社会開発国家」を要約して描いたブラジルを知るための好著である。堀坂氏は長年にわたる「地域研究」の手法によって、新生ブラジルが再生していったかを活写している。
文民政権の6代目のルセフ大統領は2011年ブラジル初の女性大統領で、11人の女性閣僚を抱え、大土地所有制や奴隷制の歴史に根ざす男性優位主義から急速に変革しているのも注目される。貧困世帯への家庭奨励費も母親に渡すという徹底振りだ。軍政時代学生運動で逮捕・拷問された経歴をもつ。これだけみてもブラジルの変化は劇的である。貧困撲滅を目標にした政治は注目される。軍部政権の開発独裁から、民主主義政権による「開かれた市場経済」に移行し、民営化と外資導入、安定した金融政策で、経済成長は21世紀に飛躍している。ブラジルの特徴は88年憲法にみられるが、政府・企業・市民の三者の協働にある。例えば「参加型予算」では、地方自治体の住民の声を予算編成に反映させようとしている。飯坂氏はブラジルの開発を軍政時代の開発独裁とも、市場優先の新自由主義とも違う第三の道としての「社会開発主義」と述べている。
多人種、広大な国土それに資源大国ブラジルは、国土開発は激しいが、88年憲法で環境権を宣言し、アマゾン問題や森林破壊にとりくんでいるが、この帰趨も地球の運命を左右することになる。また隣国アルゼンチン、パラグアイとの南米南部共同市場(メルスコール)や、さらに南米諸国が連携する「南米諸国連合」の動きも21世紀を変えるかもしれない。日本とブラジルは、日系移民150万人と在日ブラジル労働者21万人と相互交流も著しいから、今後ブラジルを知ることは重要になる。(岩波新書