大城道則『古代エジプト文明』

大城道則『古代エジプト明』

 この本の特徴は、古代エジプトで最初の統一王朝が出現してからクレオパトラの死までの3000年の歴史を、西洋世界の源流として、ミノア、ヒクソス、ヒッタイトペルシャアレクサンドロス大王ギリシャローマ帝国という地中海史になかで捉えようとしていることである。古代ギリシャ・ローマ文明中心史観ではなく、エジプトを世界史の源流として光を当てようとしている。ミノア文明から地中海を通じて沿岸諸国と相互交流がエジプトにあり、今後の世界史の書き換えも見え始めている。ヒクソスやヒッタイトリビア、それに「海の民」といった複合民族のエジプト侵入と、その応戦も最新研究で描かれている。
ヒクソスの場合は東地中海の気候の乾燥化、「海の民」の場合は、紀元前1630年頃のヘレニック海溝での巨大地震と大津波が引き金になり、民族移動が起こった点にも触れられている。紀元前15世紀エジプト帝国主義時代にトトメス三世が、鉄と馬戦車を持ち七つの言語と多神教ヒッタイト帝国と激突したカデシュの戦いの記述も、その後の平和条約による平和交易を引き出し地中海の「パックス・エジプト」を確立したというのも面白い。今後はユーラシアやサワラ以南のアフリカ史との交流による世界史も期待できる。
古代エジプト多神教世界だが、紀元前14世紀新王国18王朝のアクエンアテンは異端の王で、太陽神ラーの一神教と来世信仰否定という「宗教改革」を行ったが、それと出エジプトをはたし一神教を確立するモーセ旧約聖書の関わりも大城氏は詳しく触れており、アクエンアテン王には強力に成りすぎた神官団を排除する意図があったと見ている。この一神教の起源は、エジプト民衆には普及しなかったが、その後キリスト教イスラム教と世界史を左右していくものになる。アレクサンドロス大王がエジプト王として即位し、アレキサンドリア都市を建設し東征したことや、最後の女王クレオパトラがローマのシーザーやアントニウスを操っただけでなく、重税を減税しエジプト経済を立て直し、4人の子の母として、自殺する前にいかに子供の生き残りに気を配ったかなど才女としての面が書かれていて面白かった。(講談社選書メチェ)