青山和夫『マヤ文明』

青山和夫『マヤ文明

 25年にわたりグアテマラホンジュラス、メキシコでマヤ文明の考古学発掘・研究を行ってきた青山氏の労作である。2000年以上続くマヤ文明に日本高校教科書ではほとんど取り上げられないし、インカ、アステカ文明と一緒くたにされている。青山氏は旧大陸の四大古代文明(エジプト、メソポタニア、黄河、インダス)とともに、メソアメリカを含めた六大文明(マヤ、アンデス)を世界史で再構成すべきだと考えている。さらにマヤ文明が謎と神秘の文明とするサブカルチャーのマヤ宇宙人説や、マヤ終末予言、また映画「スター・ウォーズ」で反乱軍の秘密基地としてチィカル遺跡が使用され、金星周期戦争説のマヤ文字も青山氏は否定し、考古学による実証的なマヤ像を呈示している。
青山氏が25年前にホンジュラスでマヤ遺跡を掘り出してから、ホンジュラス世界遺産コバン遺跡、グアテマラのアグアテカ遺跡など多数の遺跡を発掘し、石器の使用痕を数多く調査した軌跡が、その発見の努力と苦労がこの本で述べられていて興味深い。王の遺跡だけでなく、貴族や農民の住居まで発掘し、その日常生活をふくむマヤの人々の現実が次第に明らかになっていく過程を読むと感動的である。
青山氏のマヤ文明観はこうである。四大文明と違い大河灌漑文明でなく、熱帯雨林、サバンナ、ステップ地帯のトウモロコシなどの集約農業と焼畑農業の組み合わせがマヤ文明だった。牧畜はなく「ミルクの香りのしない文明」であり、車など機械に頼らない人力エネルギーによる「手作り文明」で、鉄など金属を使わない「最高に発達した石器文明」であった。マヤの支配層は、マヤ文字を使い暦、天文観測、宗教儀礼を行う王―貴族―戦士を兼ね、さらに石碑やヒスイ、骨製品、貝製品、黒曜石の石器生産という美術・工芸家だった。神殿として山信仰によるピラミットも設計した。仮面舞踏など劇場国家、工芸国家だったというのも面白い。
スペイン征服以前の10世紀の古典期マヤ文明は、人口増や森林伐採など環境破壊、それに戦争などで衰退する。それに公共事業としてのピラミット建設が農民負担を増大させた。そこに現代に通じる歴史的教訓を青山氏は指摘している。(岩波新書