サター『経済成長神話の終わり』

アンドリュー・J・サター『経済成長神話の終わり』



日本では東日本大震災後でも依然として「新成長戦略」など経済成長を重んじているのに対して、サター氏は「減成長による繁栄」を対置して、それを日本の希望としている。日本はそれが出来るというのがサター氏の見方である。サター氏は経済成長(GDP主義)が果たして善かを綿密に経済学的手法で検証し、経済成長が社会福祉や環境問題、イノベーションに役立つかを検討する。さらに経済成長神話が誕生したのは米ソ冷戦時代だったと歴史を辿る。また経済成長すれば失業率が減るとか、税収が増えるとかは間違いだとも指摘する。
経済の価値とは何かを考え、「大きいことは良いことか」を問い、株式市場、金融市場の巨大化と、豊かな繁栄との違いを語る。GDPとますます乖離するかねの流れである金融市場の巨大化が、経済成長主義を無効にしていることも示されている。サター氏の本で迫力があるのは「減成長」による「繁栄」が日本で出来るという視点である。単に理想概念だけでなく、具体的・実践的方法を示しているのがこの本の特徴である。例えば繁栄とビジネスでは「社会事業」「協同組合」「市民事業」を示し、イノベーションでは「生産性から質へ」「創造的破壊から耐久性へ「排除から共有シェリングへ」「産業的から共生的ツールーへ」などの提案をしている。
一番の読みところは、最後の「では、日本はどうすれば良いのか」だろう。①地方の活性化②農業③エネルギーと環境④労働⑤高齢化と年金システム⑥ヘルスケア⑦教育⑧金融とグローバル化といま難題になつてる点を「減成長と繁栄」の視点で様々な提言をしていて示唆に富む。それを行うためには「民主主義」の改善だとサダー氏は最後に述べている。(講談社現代新書、中村起子訳)