マルシャーク『森は生きている』

マルシャーク『森は生きている』

 
ロシア児童劇の古典である。森の自然と12の月が主人公である。四季が自然の循環と蘇りを演じ、ロシアの厳寒な冬の森が舞台である。これに気まぐれで我儘な女王を頂く、支配―命令の反自然の宮廷・人工社会が対置されている。これに民話でよく使われる意地悪な継母とずる賢い実子の姉に、気立てのいいまま娘の家族が登場し、シンデレラのような舞台回しをする。森と四季の自然―人工的制度反自然社会―利己的な家族の三角形の構成で、この劇は成り立っている。
一月、二月、三月から十二月まで登場人物がそれぞれの月が自然の歌を歌う場面は美しい。特に春である四月の役割は大きく、その太陽再生の歌はロシアの風土の希望を現している。四月が受苦のまま娘への愛と救いに大きな役割を果たす。反自然の宮廷社会の女王は真冬に四月の花マツユキソウを欲しいと言い出し、金貨という報償で民衆を釣り、欲深い継母が、まま娘に寒い森に取りに行かせる。この宮廷社会の官僚体制は滑稽に描かれていて面白い。
 最後に反自然の欲を求めて宮廷社会が森にまで「開発」に出かける。利権を得るための反自然と、環境の操作が出来ると考える人間の浅はかさが、森という自然に復讐される。1946年に出版されたというからソ連社会主義時代だが、そこにソ連官僚制や環境破壊への批判がある。が同時に現代の原発など反自然の環境破壊への批判があるというのは、私の深読みだろうか。女王がまま娘に金貨という報償でそりに乗せるよう頼むが拒否される場面は、指令的な市場経済よりも、贈与経済への理想が表明されているように思えた。1954年に湯浅芳子の翻訳、1972年改訳だが、名訳といってよい。(岩波少年文庫