八代尚宏『新自由主義の復権』

八代尚宏新自由主義復権

 新自由主義は、日本では小泉構造改革と結びついたイメージで語られ、市場原理主義が格差を拡大したと評価が悪い。八代氏は市場機能を最大限に生かし、市場を守る政府による社会的セーフ・ネットのもとで、効率的な市場復権を目指そうとする。小泉構造改革は目指した方向が誤っていたのではなく、それが不十分・不徹底にあると言い切る。この本が面白いのは具体的な政策課題に当てはめ、その誤解を解きあかしていくことにある。政府が市場統制・介入でなく、市場が効率的・公正な競争が行えるよう審判の役割をするという修正新自由主義と言ってよい。「反市場主義」の政府による資源配分や所得配分、医療、介護、保育、職業紹介など公共サービスに責任をもつことを「賢人政治」として退けるとともに、伝統的な「共同体重視」の思想である零細農家、中小企業、郵便局を市場競争から保護することをも退ける。
小泉改革で果たして格差は拡大したかの検証は説得力がある。規制緩和と自由市場は同語であり、タクシーの参入規制緩和で運転手の所得が減ったのは、同時に料金設定の自由化で値下げし消費需要を喚起することが必要で市場主義が貫徹しなかったためという。公共事業費の抑制が地方を窮乏化したというが、都市・住宅の規制緩和を進め、民間の住宅建設投資を刺激すれば建設労働者の雇用機会が増えたとも指摘している。派遣労働の原則自由化で不安定の雇用者が増えたというが、同時に派遣契約の中途解約の補償や、雇用保険の加入条件緩和の安全弁を強化するのが、本当の新自由主義だと八代氏は説く。
社会保障改革や労働市場改革、さらに規制改革と地方分権に「構造改革特区」を導入することや、コメを輸出産業にする市場主義や、医療改革、混合介護など新自由主義の方策が八代氏の本では説かれていて、たとえ新自由主義反対者であっっても、現在の経済停滞、財政赤字高齢化社会などの国難の改革を望む人には一読の価値がある。(中公新書