山口二郎『政権交代とは何だったのか』

山口二郎政権交代とは何だったのか』

 中道左派政党による政権交代を訴えてきた政治学者山口氏が、民主党の2009年の政権交代で、政治主導による「生活第一」への政策転換を、なぜ進めることが出来なかったのかを検証した本である。民主党政権の意義と限界が整理され明らかにされている。いまの政治不信が、民主主義への懐疑とローカルポピュリズム(橋元大阪市長、河村名古屋市長など)への危険をいかに招いたかも分析している。
 私が面白かったのは「政治学は民主政治に貢献したか」という1990年代以降の論壇政治学を批判した部分である。佐々木毅氏を代表格とした21世紀臨調による「臨調政治学」は、民主党政権交代との共通性をもつと指摘した点である。自民党長期政権を様々な利益集団を傘下に収め官僚組織と連携した包括政党と見た上で、民主党政権交代が、統治形式の変化による強い政治主体とリーダーシップへの制度改革に重点を置いた点だったという。
 そのため、実際の政策やそれが目指す理念や価値観は軽視された。小選挙区制で非自民の政治家が生き残るための方便で結集した「方便政党」である民主党が、安保や社会保障、経済政策で無原則の多様性が混在していたため、統治形式の強化だけが結集点になり、マニフェストという政策は共有されなかった。マニフェストは、選挙という市場競争に勝つための商品カタログになった。政策学という専門学は官僚に利用されるか、権力批判として左翼に忌避され現実との接点をもたなくなったと山口氏はいう。
山口氏は、その政治主導の構築も試行錯誤をきわめ、財務省主導や経産省既得権益維持を壊せず、外務官僚による日米安保体制という「国体」化も壊せず、国家戦略局や党政調と、官邸の関係もうまくいかなかった。政治主導による政策転換の成否を、山口氏は租税政策、年金政策、沖縄基地問題などを取り上げて分析している。さらにマニフェスト政治の失敗を、理念なき未熟、財源問題に現れた責任意識の不在など詳細に述べている。最後に大震災後の民主政治のあり方も論じられていて、政治学の役割はなにかも考えさせられる。(岩波新書