遠藤薫編著『大震災以後の社会学』

遠藤薫=編著『大震災後の社会学


 社会システム論による社会学者たちが、大震災後の日本におけるリスク社会でダメージを最小限にし、リスクを取り込んで自己強化する「自己快癒力」をいかに目指すかを分析した本である。そこには5人の社会学者が大震災と社会変動の関連や、東日本大震災にみる「日本型システム」の弱さ、災害ボランティアの成熟とは何か、日本の防災システムな落とし穴、震災とメディア、さらに地域経済復興のミスマッチなどが取り上げられていて興味深い。
 それぞれ面白いが私が注目したのは震災で顕在化した「日本型システム」=自民党型分配システムが復興で足かせに成っているという指摘だろう。中央と地方の支配―従属でなく、地方が自発的に権限委譲と税金資金分配の相互的関係を作ってきた「ニセの自律性」に問題があるという。この指摘は開沼博『「フクシマ」論』(青土社)の主張に似通う。このシステムは反国家主義と国家の寄生が併存しており、日本的経営と日本型福祉社会の根底を形成もしている。小泉新自由主義改革も地方からの「申請」と中央の「審査」で財源が利権となり、中央が依然として握る。そこには「国民統合」の理念も不在だし、合意形成のプラットホームも不在だという。
 ボランティアの成熟は阪神・淡路大震災から東日本大震災まで成長してきた。だが筆者があげる新しい課題は、災害ボランティアセンターやNPO/NGOの「硬直性」や「行き過ぎた管理」といった官僚制をいかに回避し個人的ボランティアと関係を結ぶか、スキルをいかに身につけるか、国家とNPO、ボランティア、市民社会が広域な連携を築くかだという。国家と市民社会の新しいパートナーシップという提言は論議を呼ぶ課題だろう。
 地域経済復興の鍵となる中小企業の自律性の政策や、防災システムの「想定主義」「精神主義」「平等主義」の問題点の指摘、多様なメディアの媒介としてのソーシャルメディアの役割や風評被害の分析など社会学者たちの分析は鋭い。一読の価値がある本だ。(講談社現代新書