野本陽代『ベテルギウスの超新星爆発』

野本陽代『ベテルギウス超新星爆発


 宇宙像は天文学の発展によって次々塗り替えられていく。野本氏は星が最後を迎え爆発する直前の明るく輝く赤色超新星の出現が、宇宙像の変化に大きな役割を為して来たことをこの本で明らかにしている。天動説から地動説へ、地球上で知られる物質から未知の暗黒物質とダーク・エネルギー満ちた宇宙へ、穏やかな宇宙から加速膨張する宇宙へと現代宇宙観は変貌している。そして今、オリオン座にある一等星ベテルギウス(地球から約640光年、太陽質量の約20倍といわれる)が赤色超巨星となり、いつ爆発するかわからない観測結果がでている。地球への影響もさることながら、地球から近い距離でのその爆発の観測で、さらに宇宙像が変わるかもしれないと野本氏の本は示唆している。
 この本ではベテルギウス爆発の騒動だけでなく、星の誕生から最後までの星の一生を、どう起こり進化し、最後消滅するかを述べており、たそがれを迎えた超新星とはどういう現象なのかの最新研究成果を知らせてくれる。私が面白かったのは超新星の観測が、宇宙の現代研究の核に成っていることである。2011年ノーベル物理学賞を受賞したパールムッター、シュミット、リースの三学者は、宇宙がビクバンの誕生から膨張してきており、それも加速し大きくなり過疎になっていくことを、超新星の観測研究から理論化した功績であった。
 宇宙を拡大させるなんらかの力があり、それはアインシュタインが考えた重力に対抗する力であり、その力は「ダーク・エネルギー」と呼ばれる。野本氏のこの本では、超新星の観測だけでなく、宇宙背景放射観測のため2001年打ち上げられたWMAP衛星でも確認されていて、現在宇宙を構成しているのは、73%がダーク・エネルギー、23%が暗黒物質、わずか4%が普通の元素物質というのには驚いた。そいえば2011年に未知の質量の起源といわれるヒックス粒子の発見が報じられた。まだまだ宇宙は未知の世界であり、不可知論の支配する分野なのである。人間の有限性を感じる。(幻冬舎新書