藻谷浩介『デフレの正体』

藻谷浩介『デフレの正体』

19世紀の英国の経済学者マルサスは『人口論』で、「人口は防げられないなら幾何級数的に増加し、食糧は算術級数的にしか増加しない」と言い、人口が社会の将来の改善に有する関係を分析した。藻谷氏はこの本で経済を動かしているのは、景気の波でなく人口の波で、「生産年齢人口=現役世代の減少」がデフレの正体だと主張している。生産年齢人口の減少と高齢者人口の増加が内需の不振を招き、不景気を加速していると見た。時代も結論も違うが、経済を外部の社会的要因で広く考える点は似ている。
 藻谷氏は、公表されている統計を使い、長期的な視点でその基盤まで読み、現場まで行き検証しながら、いま言われている経済的通説を掘り崩していく手法は小気味良い。国際競争力の低迷とか、地域間格差とか、経済成長こそ解決策、もの作りでの技術革新とかいう神話が、ことごとく崩される。そこには、日本が始めて経験する高齢化社会と経済の関係が見事に浮き彫りにされている。
 この本の特徴は批判だけでなく、どうすればいいのかという対策を提示していることにある。例えば①高齢富裕層から若者への所得移転を②女性の就労と経営参加を当たり前に③労働者でなく外国人観光客・短期定住客の受け入れをなどは納得できる。また、高齢化社会における安心・安全は生活保護の充実でとか、年金から「生年別共済」への切り替えをとか、戦後の住宅供給と同じ考え方で進める医療福祉分野の供給増加などは、正否の意見はあるだろうが、真剣に議論すべき問題だと思う。いま日本社会を考えるために必要な本である。(角川書店