内田樹『街場のメディア論』

内田樹『街場のメディア論』
メディア論と思って読んだら、市場原理批判であり、長期的なコミュニケーション論でもあった。マスメディア(新聞、テレビ)から、電子書籍著作権問題、出版不況、教育、読書論まで含みこんでいる。市場化できないものとして、メディア、医療、教育、著作権、読書を、自然環境や社会インフラとともに、「社会的共通資本」として捉えている。メディアや医療、教育が市場化し、サービスが商品として消費者重視に成っている今、その弊害を突く内田氏の筆鋒は鋭い。
 メディアが消費者社会の商品になると、クレマー化し、被害者のみの視点を重視し、「とりあえず」の正義を掲げ、過度な弱者救済の主張になる。文体始めマニュアル化がすすみ、ジャーナリズム個人の肉声は聞こえなくなる、さらに「変化」を商品販売のため賞揚し、戦争などは大好きという視点は同感した。変化しないものの重視は内田氏が、慣行や習慣、常識を大事にする健全な保守主義(バークやケインズ的な)だとも思った。著作権や読書論は、市場原理よりも、モースなどの人類学的「贈与と返礼」で考えようとしている事が、面白かった。電子書籍に就いて読書の多様化として是認しているが、本を所有する書棚から、紙による本を未来に読むため置く視点から見る考えは新発見だと思った。読書論としても面白い(光文社新書