スキダルスキー『なにがケインズを復活させたのか』

ロバート・スキデルスキー『なにがケインズを復活させたのか』
 金融危機からポスト市場原理主義の経済学が注目され、ケインズの復活が起こった。クルークマンがその代表だが、スキデルスキーもその一人である。「ケインズ伝」の著者だけあって、その分析は鋭い。この本の特徴は、単に経済学者だけでなく、ケインズを、数学者、歴史家、政治家、哲学者として扱う。ケインズの経済学から、ケインズと資本主義の倫理、政治学から、今日的意義に及ぶ。
 この本の魅力は経済学に「不確実性」という概念を導入し、金融・投資を新たな視点で見ようとしたことだ。新古典経済学の「合理的予想」論を批判し、金融不安定性を不確実性と不確実性削減のケインズ理論で見ようとしている。不確実性により、人々が貯蓄を流動性のある形で持つ理由、投資が変動しやすい理由、金利によって投資と貯蓄が調整されないことを説いた。確率による蓋然性、慣行・習慣による経験則にたよることもケインズの経済学には織り込まれている。70年代の市場原理主義フリードマンら)の登場によりケインズ革命はいかに破れ、2008年金融危機でいかに復活したかの分析も面白い。
 この本のもう一つの魅力は、「金銭愛」でなく、いかに良い心の状態による幸福な生活を送るかを資本主義の「倫理」としてケインズが追求した今日的意味まで考えていることだ。そこには人間同士の交際の楽しさや、美的・芸術的充実の生活など、「功利主義」を乗り越えようとする経済学の手段化がある。
 今日的意義として、政治のサイクルや、金融の抑制、貯蓄過剰の対策、グローバル化の限界、輸出成長型の抑制など色々な示唆がある。金融危機以後の経済学を考える本である。(日本経済新聞出版社山岡洋一訳)