栗山民也『演出家の仕事』

栗山民也『演出家の仕事』
    2007年まで新国立劇場演劇部門芸術監督を務めた演出家がその仕事を書いた本で、いま日本の演劇が抱えている問題を浮かび上がらせている。
    2003年にベルリンの高等演劇学校を訪れ、新国立劇場のパンフレットを見せると、感嘆の声が副学長らに上がったが、俳優養成所がないと聞き、こんな素晴らしい劇場があるのにと呆れられた。韓国では1946年に国立養成所が作られており、日本のハコ物先行は倒錯していると栗山氏は指摘している。
    栗山氏は俳優に「聞く力」の重要性を説く。自分のセリフをうまく言えるだけでなく、他者(相手役)のセリフを聞くことが、関係性の演劇では大切と考える。
    「聞く力」は人間の心の動きを聞くことであり、舞台で空白=沈黙(間)にこそ面白さが生まれるとも言う。稽古場で濁った声や、自分の未知の声を出してみることなど栗山流演技術も説かれている。俳優とは、基礎訓練は必要だが、栗山氏は「自分自身を知る」ことが、自分のもつ無数の声と身体の動きを引き出すためにも基盤になると見る。
    栗山氏が自分の成育史まで書いていて、演出家になぜなったかを明らかにする。また世界の劇場や演劇人、劇作家に会う話も、演出とは何かを分からせてくれる。栗山氏が演出した井上ひさし「ロマンス」演出日記も読ませる。(岩波新書