パシカル『ロシア・ルネサンス』

ピェール・パスカル『ロシア・ルネサンス
20世紀ロシア精神史である。スターリン主義以前のロシアには19世紀末から20世紀前半にかけてルネスサンスにあたる文化の多様な勃興があり、それが逆にスターリン全体主義の過酷な弾圧を引き起こしたともいえる。訳者・川崎浹氏によれば、20世紀には、ロシア・アヴァンギャルド芸術、構造主義の祖フォルマリズム、それにロシア・ルネスサンス運動があるという。私はもう一つロシア・マルクス主義を加え、4潮流だと思う。パスカルのこの本は1900年から1950年にわたる哲学、宗教、芸術、科学にわたる思潮を簡潔に纏めたもので鳥瞰図を得るのに良い。
パスカルの視点は、1922年にソ連政権が思想の独裁権を手にした1922年を区切りにして、1900年から22年は19世紀後半に支配的だった科学的・唯物論てき思潮に対し、精神主義の輝きがふきだしたルネサンス時代としている。その上でソ連共産党が22年以来導いた方向は19世紀「60年代」の唯物論の思想だとみる。確かに、20世紀前半は未来派、シンボリズムの詩人ベールイやブローク、マヤコフスキーフレーブニコフ、エセーニンが出る。思想でも「道標」派のベルジャーエフブルガーコフなどもいた。また西欧にたいしてスラブいやもっと広く東方を含みこむユーラシア思想(スキタイズム)という魅力的思想も生まれていた。パスカルは個人的にもベルジャーエフに親しかったせいか、「道標」派に力点を置きすぎているのが気になる。だがソ連崩壊後のギリシャ正教復権などを見れば、納得できる。ロシア近現代思潮の極端な激動を知るために良い本である。(みすず書房・川崎浹訳)